JR東日本パワハラ訴訟、原告控訴棄却も社員1人への賠償判決は維持 東京高裁
金本裕司・ジャーナリスト|2024年5月20日7:14PM
会社側から労働組合を脱退するよう強要されたとして、JR東日本の社員4人が約500万円の損害賠償を同社に求めた訴訟の控訴審判決が4月24日、東京高裁(相澤眞木裁判長)であった。判決は4人の控訴を棄却したが、うち1人については脱退勧奨による損害賠償を命じた一審判決を維持。原告と、支援した「JR東日本輸送サービス労働組合」(以下、輸送サービス労組)は「棄却は残念だが、パワハラが認定されたことは大きな前進」として、労働環境改善に向け会社側との交渉を継続することを確認した。
裁判のきっかけは2018年の春闘だ。「東日本旅客鉄道労働組合」(以下、JR東労組)がストライキ権行使を予告したことに対し、会社側は「労使共同宣言」の失効を通告するなど反発した。当時JR東労組員だった原告らは会社側から組合脱退を強要されたとして、労働委員会に救済を申し立てた。しかし、JR東労組の中央本部は本部への相談や議論がなかったとして取り下げを指令。原告4人は19年12月、個人として会社に損害賠償を求める訴訟を起こした。20年2月にJR東労組から分離した輸送サービス労組(上部組織は「日本輸送サービス労働組合連合会」)が「あったことをなかったことにはできない」を合言葉に原告を支援してきた。
裁判では、脱退勧奨があったかどうか、会社側が組織的に関与したかどうかが争点になった。
23年8月、東京地裁の一審判決では、4人のうち放出弘喜さん(大崎運輸区、車掌)に対し、上司らが「人事上の不利益とも解される言動」とともに「(懇親会で)20回以上にわたり、しかも二次会の席においても繰り返し脱退するよう求めた」ことを認定。精神的苦痛に対し5万5000円を賠償するよう命じた。一方で会社の組織的な関与は認めず、他の原告の訴えも退けた。
高裁でも、放出さんについては脱退勧奨の事実が認められるとして賠償判決を維持した。しかし、組織的な脱退勧奨を4人が主張した点については、会社の方針により行なわれているとまでは認められないとして退けた。
原告は上告せず判決確定
判決後、組合員約300人が参加し、参議院議員会館内で報告集会が開かれた。輸送サービス労組の佐々木宏充委員長は「いくつかの不当労働行為が認められ、会社の使用者責任も問われた。成果を踏まえ、安全で信頼できる鉄道を作り上げていくため、職場活動をしていきたい」と総括。弁護団の市橋耕太弁護士も「各地で脱退勧奨が行なわれていたのは動かない事実だ。労働団体として会社と対峙してほしい」と語った。
放出さんは「1円でも勝ち取れれば勝利だと思っていた。一部でも認められたことは不法行為の証しだ」と語った。
会社側は判決後すぐに「東京高裁は、会社は組織的な脱退勧奨等の不当労働行為を行っていないという一審判決を改めて維持した」と社員に周知。原告・組合側は27日に協議し、上告はせず「勝利判決を堅持」すると決めた。
JR東日本は人口減少などで経営環境が変化する中、社員の養成やライフサイクルを変える「新たなジョブローテーション」を20年春から実施している。従来、現業職は「駅→車掌→運転士」の順で養成されたが、これを見直し、営業、不動産部門などへ配置転換が行なわれる。鉄道事業部門は4000人規模で削減とも言われる。
一方でJR東管内では最近でも新幹線の架線が垂れ下がって運転を長時間見合わせたり、停車駅をオーバーランしたりというトラブルが起きている。輸送サービス労組は「ジョブローテーションでは技術が伝承されず、最優先すべき安全が脅かされる」と批判。さらに、異動者の半数以上が同労組員に集中(22年1月現在、同労組調べ)しており「労組差別」だと主張している。原告の1人、高橋弘樹さん(綾瀬運輸区、運転士)は「組合差別や脱退勧奨と闘い、公共交通機関にふさわしい会社に戻していきたい」と語った。
(『週刊金曜日』2024年5月10日号)