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難民申請不許可取り消し求めたスリランカ人男性の悲痛な訴え 「私たちは家族」

樫田秀樹・ジャーナリスト|2024年5月20日7:32PM

 難民申請が不許可となった処分の取り消しを求めてスリランカ人のナビーンさんと妻の久保なおみさんが起こした裁判(※注)で、原告2人への証人尋問が4月18日に東京地裁で行なわれた。こうした裁判では通常、在留資格が付与されない本人が原告になるが、日本人配偶者が原告になったのは「仮放免という、労働も移動の自由も認められない状態に置かれることで家族も苦しむことになるから」(なおみさん)だ。

証人尋問後の報告集会で。左からナビーンさん、浦城知子弁護士、久保なおみさん。(撮影/樫田秀樹)

 午後2時過ぎに始まった証人尋問では、まずナビーンさんが、原告代理人の浦城知子弁護士からの質問に対して証言した。

 スリランカで父が統一国民党(UNP)の広報を担当していたナビーンさんは補助として2001年からポスター発注やポスター貼り、支援を訴える戸別訪問などをしていた。しかし04年4月15日、父と車で帰る途中、前を走っていた車に道を塞がれ、UNPの対抗政党である人民連合(PA)の男たちに棒で殴られ右手首を骨折。父は腹部を殴られ、それが原因で腎臓が悪くなり、ナビーンさんの来日後に死亡した。

 命の危機を感じたナビーンさんは、家族の勧めもあり、日本語学校への留学生として留学生ビザを携えて04年12月に来日。だが学費をだまし取られ、退学を余儀なくされた。相談を受けた入管は「専門家と相談を」と言うだけで対処してくれなかった。

 05年12月にビザが失効したが、帰国を恐れて在留資格のないまま千葉県で農家の手伝いなどをしながら生きてきた。不法滞在が発覚した12年に入管に収容され、後に仮放免されて16年10月になおみさんと入籍するも、17年2月に再収容。今は仮放免の身だが、働けないことで「家族を支えられない。心が痛い」と言って証言を締めた。

 続いて被告である国側の代理人の弁護士が反対尋問。難民申請時の調査書にナビーンさんが「暴行された時、対向車を避けるため一時停止した」と記載したとの記録を示し「証言と違う」と指摘。ナビーンさんは「調書へのサイン後に私が言っていないことが後付けで書かれている」と証言の正しさを強調した。以後も国側代理人は「オーバーステイ(不法滞在)となった後も入管を恐れ住居をいくつも変えたのでは」と当たり前の質問を繰り返したが、肝心な質問は夫妻の婚姻関係の真実性についてであるはずだ。その質問はついに一つもなかった。

次回7月の期日で結審

 次になおみさんが証言。ナビーンさんとは05年に出会うが、自身が離婚したばかりで、2人の幼い息子がいたため「2人に手がかからなくなってから」と結婚前提で付き合いを続けた。16年に入籍。今はナビーンさん、母と長男、二男と一緒に暮らしており、家族であることを強調した。

 国側代理人の「結婚を考えていたのにビザが切れたらどうなるかは考えなかったのか」との質問には「仕事と育児に時間を取られ、そう考える余裕はなかった」(裁判終了後「運転免許証の書き換え程度の手続きかなとの認識だった」と話した)。さらに「陳述書には07年から11年までで交際はいったん終わったと書いているが」と、本当の結婚なのかを疑うような質問も受けたが、「『別れた』という意味ではない。会う頻度が少なくなったということ」と回答。ただ裁判長からも「ビザが切れたらどうなるのかと調べるのが自然だが、なぜそれをしなかったのか」と、同じような質問がなされた。

 なおみさんは「私にもっと知識があればよかった」と答えたが、入管問題がほとんど社会に知られていなかった当時、夫妻は同様の境遇にいた外国人や日本人配偶者とのつながりが一切なく孤立無援の状態にあり、情報や知識を得る場はなかったのだ。

 入管は日本人配偶者がいる仮放免者には「実子がいれば配偶者ビザを得る可能性が高まる」と説明するが、入籍して8年、実子はいなくてもナビーンさんが家族関係を構築しているのは事実だ。次回の期日は7月25日。この日をもって本裁判は結審する。

※注:本誌2023年3月3日号のほか「週刊金曜日オンライン」同年6月7日付(https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2023/06/07/news-140/5/)で詳報。

(『週刊金曜日』2024年5月10日号を一部修正)

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