「日の丸・君が代」強制に国際機関が勧告 外務省見解への対応は?
永尾俊彦・ルポライター|2024年5月20日7:49PM
卒業式・入学式などで出された「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱せよ」との職務命令に従わずに処分された東京都立学校の教員らでつくる「東京・教育の自由裁判をすすめる会」(以下、同会)は、国際機関の勧告に基づき職務命令を出さないことなどを3月に東京都教育委員会に要請していたが、これについて4月19日、「都教育委員会は、締約国の地方公共団体として、国際人権規約について答える立場にありません」との従来通りの回答が文書で届いた。都教委から停職、減給、戒告の処分を受けた教職員はこれまで延べ484人にのぼる。
国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(UNESCО)の合同専門家委員会(CEART)は、日本政府に「国旗掲揚国歌斉唱への参加を望まない教師を受容するような規則について教員組織との対話の機会を設けること」(日本弁護士連合会訳)などの勧告を2019年に出している。国連自由権規約委員会も「思想及び良心の自由の効果的な行使を保障」(同)することなどの勧告を22年に出している。同会などは21年12月に外務省と交渉。同規約が定める義務は「都教委を含め、遵守される必要がある」との見解を得た。
以後、同会などは都教委との交渉を重ね、自由権規約を守り、都立学校校長に職務命令を出すよう命じた通達(03年10月23日=10・23通達)の撤回などを要請した。だが、回答は毎回「答える立場にありません」だった。
そこで同会は外務省と交渉を続け、今年3月18日、同省人権人道課の井上陽子・課長補佐から次の踏み込んだ見解を引き出した。
①地方公共団体の条約遵守義務について外務省のポジションは、前任者の回答から一切変わっておりません。東京都教育委員会には規約締約国の地方公共団体として条約遵守義務があります。
②都教委の「都教育委員会は、締約国の地方公共団体として、国際人権規約について答える立場にありません」との見解は、外務省の立場とは異なるものです。
③外務省から都教委に直接何かを伝えるルートはありませんが、貴団体からの要請に対する回答として、外務省のポジションは今も変わっていないことを、私の名前で伝えていただいて構いません。
そこで同会は3月26日、この外務省見解を都教委に伝え、国際規範の遵守を重ねて要請したが、4月19日の回答は従来通りだった。
「コロッと変わることはない」
筆者は、東京都教育庁指導部の熊木崇・主任指導主事に都教委の回答について質した。
――外務省見解を否定するのですか。
「否定はしません」
――ということは条約遵守義務があるということでいいですか。
「答える立場にありません」
――一般の都民にもこの問題に関心を持っている人はいますが「答える立場にない」で理解されますか。
「私たちの立場は判決で認められています。司法の判断を仰ぎながらやっているので、コロッと180度変わることはありません」
――国際基準に従わないのですか。
「答える立場にありません」
――外務省と協議していますか。
「(条約への対応のような)各論では協議はしていません」
同会の元都立高校教員、花輪紅一郎さん(74歳)は「行政は立法の範囲内でしか業務ができないはずなのに、法律(条約)をあからさまに無視するのは行政の権限を逸脱する違法行為に当たるのではないでしょうか。都教委の態度は、統治システムを無視し、独善的で異様に見えます」と話した。
3月27日に開かれた都立学校の卒業式総括集会では、処分の撤回を求める東京「君が代」裁判5次訴訟の原告らから、10・23通達から20年余り経過し「日の丸・君が代」強制に疑問を持たず、教員が思考停止状態に陥っている現場の実態が次々に報告された。
同会は都教委の一連の不誠実な態度を、次回2030年の国連自由権規約委員会第8回日本政府報告書審査にNGOレポートとして提出することも検討する。
(『週刊金曜日』2024年5月10日号)