奄美大島、コンクリート護岸建設訴訟は原告敗訴 自然環境への影響は?
西村仁美・ルポライター|2024年5月27日8:25PM
鹿児島県の奄美大島南部にある嘉徳海岸に、侵食対策事業としてコンクリート護岸建設工事の計画があり、県知事に対して、住民8人が一切の公金支出差し止めなどを求めた住民訴訟の控訴審判決が4月24日にあった。福岡高裁宮崎支部(西森政一裁判長)は一審(鹿児島地裁・昨年2月)に続いて原告側の訴えをすべて退けた。
同海岸や、そこに砂を運ぶ嘉徳川流域は、同島内の世界自然遺産登録区域に近接し、その環境を効果的に保護する緩衝地帯になっている。問題の護岸工事は2014年に当地を襲った台風18号・19号の被害後に、災害対策を要望する声が出たことを受けて県が計画。この見直しを求める住民(※注)ら原告は「本件護岸がその必要性を欠いている上、これが生物環境・自然環境にも多大な影響を与える」などと、海岸法や地方自治法などに違反すると主張した。だが判決は、県知事が専門家の意見などに基づき同護岸設置が必要と判断しており、そこに「不合理な点があるとは認められない」とした。
判決後の記者会見で原告代理人(弁護団長)の籠橋隆明弁護士は、「控訴審では(海岸の砂の)侵食がなく、侵食対策事業はできない点などを主張したが、裁判所から回答はまったくない。行政の判断は原則正しいという、白紙委任の考え方を出している」と、裁判所の「役割放棄」を批判。
原告の一人で嘉徳在住のジョンマーク髙木さんは落胆しつつも、「日本政府はUNESCO(国連教育科学文化機関)の諮問機関であるIUCN(国際自然保護連合)への報告書で、護岸が嘉徳川に影響を与えない条件下で造られる旨を説明しているが、これは誤った情報であり、約束違反になる」と指摘。工事が始まれば国際的な大問題になるとして、国にも責任があることを示唆した。判決を不服とする原告側は5月2日、最高裁に上告した。
※注:護岸建設計画について住民側が挙げる論点、主張については以下のサイトを参照。
katoku.org
(『週刊金曜日』2024年5月17日号)