性犯罪歴確認の日本版DBSに大臣が「下着窃盗やストーカー含まず」発言 反発署名は3万超に
吉永磨美・編集部|2024年5月31日8:29PM
子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを確認する制度「日本版DBS」を導入するための法案が、5月22日に衆議院特別委員会にて全会一致で可決。翌23日には本会議で可決のうえ参議院に送られた。
英国のDBS(前歴開示・前歴者就業制限機構=Disclosure and Barring Service)を参考に日本でも同様の制度を導入することを謳うこの法案では、子どもを性犯罪による被害から守るため、そうした犯罪歴のある人の就労を実質制限する。対象は「児童などの権利を著しく侵害し、その心身に重大な影響を与える性犯罪」で「人の性的自由を侵害する性犯罪や性暴力の罪に限定」するとされている。
ところが同法案審議中の14日、特別委員会での答弁で加藤鮎子・こども政策担当大臣が、下着窃盗やストーカー規制法違反は犯歴照会の対象とはならないと発言したことをめぐって、性暴力被害者の支援や包括的性教育などを進める専門家らが反発。翌15日には下着窃盗やストーカーの犯歴も対象にすることを求めるオンライン署名活動がスタート。21日までに約3万2000筆が集まった署名は、主催した市民団体「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんらが、同日にこども家庭庁の藤原朋子成育局長に手渡した。
発端となった14日の特別委員会答弁で加藤大臣は、下着窃盗等は「財産に対する罪である窃盗罪」、ストーカー規制法違反は「恋愛感情またはそれが満たされなかったことによる怨恨の感情を充足する目的でつきまとい、著しく粗野または乱暴な言動等を繰り返すことなどを内容とする罪」であると説明。そのうえで、結果として下着窃盗もストーカーも「人に対する性暴力とは言えない」ため、DBSでも確認対象とする罪とは「その性質が異なり、本法案の対象とはしない」との見解を示した。
これに対し、福田さんらはまず下着窃盗については「なぜ下着を盗むかといえば、プライベートパーツ、性的部位に触れるから」と指摘。さらに「大切なからだの一部に直接触れる下着を盗まれることは『じぶんのからだはじぶんだけのもの』という心身の安全、安心感を根底から覆しうる、同意のない性的行為の側面から扱われてもいいはずの事案ではないでしょうか?」と訴えている。
「被害者非難」との批判も
ストーカーに関しては今年5月、東京・西新宿の高層マンション敷地内で、ストーカーだった男に女性が刺殺されたとされる事件が起きた。福田さんらは「自身の恋愛感情や怨恨をコントロールできず、他者のバウンダリー(境界線)を著しく侵害して心身の安全を犯した個人が子どもに接する職業に就くのははたして妥当なことでしょうか」と疑問を投げかける。
福田さんと一緒に署名を提出した、女性の政治参加を進める「FIFTYS PROJECT」のメンバーで大学生の山島凜佳さんは、加藤大臣の答弁について「最初に聞いた時に、二次加害で、むしろ被害者非難を内在していると思った」と指摘。「性暴力を許さない社会は一人ひとりが作っていくもので、法律はそれを規定する大きな力だ」と述べた。
NPO法人「ピルコン」理事長の染矢明日香さんは「子どもを対象とする性犯罪は、子どもに対してのみ性的欲求が向くタイプと、本来は大人に対する性的関心となるものの代償として子どもに関心を向けるタイプがある。割合的には後者が多いといわれている」と指摘。さらに「初犯が大人を対象とする犯罪行為でも、再犯は子どもを対象にする可能性は否定できない」と述べ、成人に対する性的犯罪を、子どもへの加害と分けて考えることへの懸念を示した。
同法案が成立・施行されると、学校や保育所・幼稚園、児童養護施設、学習塾、放課後児童クラブなどの場において子どもと接する仕事に就く人には性犯罪歴の確認を義務づけ、政府が情報照会システムを構築する。そのうえで性犯罪歴がある人には刑終了から最長20年間、子どもと接する仕事の就業が制限される。
(『週刊金曜日』2024年5月31日号)