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高浜・美浜原発延長認可等取消訴訟 高浜1号機の原子炉容器は脆性破壊のおそれあり

柴山恭子(老朽原発40年廃炉訴訟市民の会)|2024年5月31日7:22PM

 4月26日と5月10日にあった名古屋地裁での高浜原発1・2号機取消訴訟の期日で、中性子照射脆化の問題で証人尋問が行なわれた。通常は1人の証人に主尋問、反対尋問を行なうが、今回は、一つのテーマにつき、双方が申請した証人が同時に法廷に出席して、交互に主尋問、反対尋問を実施する直接対決の形式で行なった。

期日の報告をする井野博満さん(左から2人目)。桜華会館にて。(撮影/柴山恭子)

 原子炉容器は、長年、中性子を浴びるともろくなるため、原子炉容器と同じ鋼材の試験片を炉内に入れておいて定期的に取り出して試験し、もろさを調べる。

 特に関西電力高浜原発1号機は、脆性遷移温度(金属が一定の温度以下になると粘り強さを失ってもろくなる境界の温度。脆化が進むと高くなる)が40年運転時点(第4回監視試験)で99℃と全国の原発の中で最も高い数値が出ていたが、2023年に関電が提出した第5回試験結果では、105℃とさらに上昇した。第4回と第5回の間はほとんど停止していたのに!

 本件訴訟では、中性子照射脆化の評価の数々の問題を追及して、関電の評価が過小評価であり、適切に評価すると高浜1号機の原子炉容器は脆性破壊のおそれがあることや、原子力規制委員会が試験結果の原データも確認せず、関電の評価結果をうのみにして認可したことも明らかにしてきた。

 その中の一つが、現在の脆化予測法で将来予測をするときの温度移行量不足問題。昨年、原子力規制庁がまとめた国内実機のデータで移行量の不足が裏付けられた。ところが、規制庁は今年3月に、同じデータを移行量ではなく素点を比較したとして、移行量不足とは見えないような解析結果を出してきたのである。

 4月26日の尋問で、原告側証人の井野博満さん(東京大学名誉教授)は、原発老朽化問題研究会のメンバーらとともにこのデータを検討した結果をまとめた意見書をもとに、規制庁の素点の解析は適切ではなく移行量不足は明らか、現行の規定を見直すべきだと証言した。

 一方の被告側証人の鈴木雅秀さんは、長年、原子力機構で研究員を務め、問題となっている評価の規格策定の委員であった(今も委員)。評価手法には安全余裕があると強調したが、規制庁の素点の解析に問題があることは井野先生のおっしゃる通りで、この解析には賛成しないと述べた。しかし、実機のデータはまだ検討の端緒についたところ、一つ一つのデータを吟味しなくてはわからないと移行量不足については判断を避けた。

 鈴木さんは意見書で、中性子照射脆化やその評価の問題は世界の研究者が50年以上取り組んできていまだ継続中であり、司法の場で決着することはあり得ない、などと述べている。でも、私たちが裁判所に求めているのは、何が正しいのかを科学的に決着することではない。研究者の結論を待っていては取り返しのつかない原子力災害が起こるリスクがあるときに、住民・市民を守る判断をしてほしいということだ。

 7月19日が最終弁論、結審。傍聴応援をお願いいたします!

(『週刊金曜日』2024年5月31日号)

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