「共同親権」導入案が国会で成立 2026年施行の見通しも課題山積
吉永磨美・編集部|2024年6月3日2:11PM
離婚後の「共同親権」の導入をめぐる民法改正案が、5月17日に参議院本会議で自民・公明の与党のほか、立憲・維新・国民や、教育無償化を実現する会などの賛成多数により可決・成立した。
同法案は参議院法務委員会では4月19日から大型連休をはさんで5月16日まで審議された。父母の合意がなくても裁判所の判断で共同親権になり得ることへの懸念が与野党から上がったほか、家庭裁判所がDV(ドメスティック・バイオレンス)を見抜けるかなどについての議論が展開された。可決に際して同委員会は、DVや児童虐待を防止して親子の安全・安心を確保するものになっているか等を不断に検証し、必要に応じて法改正を含む制度の見直しを行なうことなどを盛り込んだ付帯決議を採択した。
親権がある両親の収入の合算で支給額が判断される教育無償化の支援、両親が合意できない場合の子どものパスポート取得など、子どもの権利をめぐる議論が、衆参を通じて十分に尽くされないままでのスピード成立となった。改正民法は2026年に施行の見通しで、以後は父母の協議により共同親権か単独親権かを決定。双方が合意できない場合は家庭裁判所が判断のうえで決めることになる。すでに離婚した人も適用対象だ。
離婚時に「将来のDVの恐れ」がある場合には単独親権になると法務省は説明する。だが、すでに離婚しているケースでDV被害の証拠が残っていない、または加害者が反省を申し出ているケースではどうなるのか。その場合に被害者が望まなければ共同親権を避けられる救済策などについては具体的に示されておらず、今後の課題となっている。
同日の参院法務委での最高裁の馬渡直史・家庭局長と法務省の竹内努・民事局長の答弁で、政府がこの法律によって影響される人数について把握していないことがわかった。
問題点把握できない大臣
また、DV被害者からは「証拠が残っておらず時間も経っている場合、裁判所で被害者だと認めてもらえるのか」という懸念の声が上がっていることにどう答えるかを出席議員より問われた小泉龍司法務大臣は「真剣に身に起こったこと、過去のことをお話しされれば裁判所に通じると思う」などと曖昧に答弁した。
離婚後に共同親権となる場合、両親の同意がないと子どもが適切な医療を受けられなくなる恐れが生じるとの指摘もあった。3歳の娘の心臓手術をめぐり説明や同意の手続きがなかったとして、離婚前別居中の父親が滋賀医科大学を提訴のうえ22年に一部勝訴した件(大津事件)は、これまでにも報道や国会審議でも取り上げられ、法務委の審議で具体的な事例として挙げられた。これについて見解を求められた小泉法務大臣は「ちょっと、今、初めて伺った」と述べるにとどまった。
同日には、共同親権導入に反対する3団体(共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会ほか)が共同声明を発表。審議の過程において、法務大臣や国会議員らが「現在の家庭裁判所の人的物的体制の不十分さや実務の運用等を正確に把握しているとは考え難いこと」「親権と親子の面会交流に直接の関係はないにもかかわらず関係があるように誤解していること」などが明らかになったと指摘したほか、離婚後の法手続きでは元配偶者に対する嫌がらせが行なわれている実態についても「対応策が準備されていない」と批判した。
5月19日夜にネットメディア「生活ニュースコモンズ」が開催したオンライン形式のイベントでNPO法人「女のスペース・おん」代表の山崎菊乃さんは、DV被害者保護を最優先するDV防止法の運用体制を見直す必要性を強調。今後の共同親権の運用に向けて、加害性のある親に対応しなければならない自治体職員を守る制度を作ることなどを盛り込んだガイドラインのほか、離婚時の相談機関や弁護士の費用などについての国の経済的支援が必要だと訴えた。
(『週刊金曜日』2024年5月31日号)