島根原発2号機運転差し止め、仮処分申請却下 住民は裁判所の「思考停止」を批判
佐藤和雄・「脱原発をめざす首長会議」事務局長|2024年6月3日2:22PM
全国で唯一、県庁所在地にあり、今年12月の再稼働をめざしている中国電力の島根原発2号機(松江市)――。中国電力による地震などへの対応が不十分であることを理由に、地元住民らがその運転差し止めを求めた仮処分の申し立てで、広島高裁松江支部(松谷佳樹裁判長)は5月15日、申し立てを却下する決定を下した。仮処分を求めてきた弁護団・申立人グループは「本決定は、原子力規制委員会の判断を無批判に前提として、思考停止に陥っている。(中略)行政追随の思考停止決定である」との声明を発表し、裁判所の判断を強く批判した。
仮処分の申し立てとは何か。
裁判の結果を待っていては、債権者に不利益が生じる可能性がある場合に、債権者の権利を保全することを目的として、裁判所が暫定的な措置を認める処分のことをいう。今回、島根原発2号機の周辺に住み、生活への不安を感じる住民が「債権者」となり、中国電力を「債務者」として申し立てた。
債権者となった4人は島根・鳥取両県の住民で、うち3人が原発から30キロメートル圏内に住んでいる。島根原発2号機の運転差し止めをめぐっては、住民側が1999年4月に提訴。2010年5月に松江地裁が請求を棄却し、住民側は控訴した。控訴審は係争中で、判決確定までに時間がかかるため、住民側が23年3月に仮処分を申し立てたのである。
提出された申立書では、申し立ての理由について「債権者らは、現世に生きる者のみならず、将来世代のためにも、安全を欠き、離隔要件に反し、避難計画に実効性がない本件原子炉の再稼働を阻止し、重大な事故の発生を未然に防止するため」と説明している。
5月15日に下された広島高裁松江支部の決定は①判断の枠組み、②地震に対する安全性、③火山事象に対する安全性、④立地審査指針違反の有無、⑤原子力災害対策指針の合理性と避難計画の実効性――の五つの争点について判断を下している。
救命設備のない船舶
そのすべてをここで詳しく説明することは難しいが、申し立てた住民の期待を大きく裏切ったであろう二つの点について述べたい。
まず一つは、原子力規制委員会への依存である。たとえば地震に対する安全性で、地震動評価の合理性については「原子力規制委員会による確認も経ているものである」「原子力規制委員会が(中略)審査において過誤、欠落があるともいえない」などと、原子力規制委員会の判断を重視している。
この点については記事の冒頭で触れたように申立人と弁護団が「行政追随の思考停止決定である」と批判しているが、その通りと言わざるを得ない。
もう一つは、避難計画の実効性について、何ら裁判所としての判断を下していない点である。
決定では、申し立てが示す「避難計画は実行性がないから、(中略)債権者らの人格権侵害の具体的危険が存在する」との主張について「上記事故が発生する具体的危険性があることがその前提となっているというべきである。しかるに、これまで検討してきたところに照らすと、上記事故が発生する具体的危険性について疎明があったということはできない。そうすると、債権者らの上記主張は、上記の前提を欠くものといわざるを得ない」などと述べ、避難計画の実効性に評価を下していない。
具体的な危険がないので、避難計画の実効性について判断する必要はない――。この驚くべき決定の論理には、原発立地自治体も、何度も決定で引用された原子力規制委員会のメンバーもさすがに腰を抜かすか、違和感を覚えるのではないだろうか。申立人と弁護団は声明でこう述べている。
「元日の能登半島地震によって、避難計画が地震による原発事故時には機能しないことが改めて明らかになった。(中略)本決定は、救命ボート等の救命設備を備えていない船舶の航行を認めるようなものであり、住民らを見捨てるものである」
(『週刊金曜日』2024年5月31日号)