非正規公務員当事者運動が押し返す「3年公募」と「クビハラ」の壁
竹信 三恵子・ジャーナリスト|2024年6月3日5:28PM
不安定な身分でありながら、正規職員の削減と新規施策の導入などにより、一線で基幹的な仕事を担わされる非正規公務員。
いま、どういう困難に直面し、それにどう立ち向かっているのか。最新の動向を踏まえ、労働問題に詳しい筆者が報告する。
非正規公務員の大量切り捨てが続く。昨年度末、東京都のスクールカウンセラー250人の任用打ち切りが報じられ、制度化された働き手切り捨てへの恐怖につけ込むように、公務現場ではハラスメントが日常化する。ただ、これらをはねのけて任用をつなげた非正規職員や、ハローワークでの正規職員の増員・非正規職員の一部正規化という動きも出てきた。反転の陰にあるのが、職場を超えた地域住民との連携などによる新しい非正規公務員運動の芽生えだ。
「削減一辺倒」に転機の兆し
3月下旬、「ハローワーク、常勤職員を増員 非正規から転換、雇用安定へ」(2024年3月21日付「共同通信」電子版)、「ハローワーク 長期支援に軸足 正規職員増、体制を強化」(同3月28日付『日本経済新聞』電子版)の見出しがネット上に躍った。
全国で500カ所を超すハローワークで働く職員は23年度現在で約3万人。うち正規職員は約1万人にすぎない。残りの約2万人は1年有期の「期間業務職員」と呼ばれる非正規職員で、こうした人々が就業支援などの基幹的な業務を担っている。期間業務職員は、実績にかかわりなく3年目に一斉に更新を打ち切られ、外部に公募が行なわれる。「3年公募制」と呼ばれる仕組みだ。
背景には、2000年初頭の「小泉改革」から強まった公務員削減と民営化路線がある。就職支援分野への人材ビジネスの進出が進み、正規職員は21年度までの約20年間に約2500人減少、その穴が非正規で埋められた【図表1、2】。
だが、企業である人材ビジネスは、短期で効率よく利益を上げられる支援に特化しがちだ。就職支援の本丸のはずの就職困難者にはきめ細かい相談や長期の支援が必要で、ハローワークのような公共機関の強化が問われ始めている。
これに、非正規の不安定待遇への批判が加わり、22年度に2人、23年度に69人が増員され、24年度にはさらに上積みされ、111人の増員となった。就職支援の中核を担う非正規の正規転換が押し出されたことは、「削減一辺倒」からの政策転換の兆しと見られる。
「3年公募制」に高まる批判
そんな機運をさらに促すのが、「3年公募制」への批判だ。
厚生労働省の労働担当職員が加入する「全労働省労働組合」(以下、「全労働」)が18年にまとめた「期間業務職員の公募にかかる全労働の見解」によると、人事院は「平等取り扱い」「成績主義」の二つの原則を掲げている。「国家公務で働く機会を国民に幅広く平等に与える」ためと「専門性を有する公務員」を確保するために試験の成績を重視するというわけだ。だが、人を機械的に取り換えれば「専門性」は育たない。非正規当事者の間では、定期的な取り換えで、待遇改善要求などを封じ込めるもの、という不満がくすぶり続けてきた。
全労働も見解で「業務が継続するにもかかわらず、新たに応募者を募り、その中で選考を勝ち抜かなければ失業するという過酷な不安に陥れる」として「即刻廃止」を求め、公募コストによる無駄を次のように批判している。
「3年ごとの公募のため約3分の1が公募対象となり、この3倍の求職者が応募すると約2万人の選考が必要となる。一人当たりの面接時間を20分と仮定しても、全国規模で見ると6666時間を費やしていることになる。しかも、通常、面接は3人程度の職員が行うため、トータルで2万時間が必要である」
これらの仕組みが自治体に波及し、20年度からの1年有期の「会計年度任用職員」の制度化と、3年公募の広がりを生んだ。冒頭のスクールカウンセラー大量失業も、5年で更新を打ち切る「5年公募制」から来ている。
こうした批判は、昨年来、一段と広がりを見せている。原動力のひとつが、議員や住民など、行政の外からの公募批判の高まりだ。