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小池都知事、出馬表明は告示直前 「圧勝神話」は崩壊か

竪場 勝司・ライター|2024年6月11日5:05PM


蓮舫氏の東京都知事選挙出馬表明をうけ、小池百合子東京都知事は3選に向けてどう出るのか。政治とカネの問題で逆風が吹く自民党の支援は──。

東京・新宿にある都庁の第一本庁舎。(撮影/本田雅和)


 小池百合子・東京都知事(71歳)は今回もまた、立候補表明時期について「煙に巻く」作戦のようだ。前回もそうだった。その政治決断の迅速さと隠密性が、彼女の真骨頂ではある。これは身内の地域政党・都民ファーストの会(都民ファ)幹部にさえ、「わからない」「知らされない」ほどの小池流「雲隠れ技」で、突然トップダウンで降りてくるという。

「空気的には、きょうは出馬をしゃべらないのではないか。しゃべるなら、もう少し違った空気だと思う。今朝、所信表明の原稿を書いた紙が議員に配られたが、その中には出馬宣言に関することはなかった。ただ、サプライズで、読み終えた後にいきなり、という可能性もゼロではない」

 都民ファの都議は、告示前最後の都議会定例会が開会する5月29日昼、筆者の取材にこう語った。

「小池知事3選出馬へ」の見出しが新聞各紙で躍ったのは5月26日。各紙とも6月20日告示の東京都知事選で、現職の小池氏が立候補する意向を固め、議会開会日の29日にも表明する可能性を報じていた。翌27日には立憲民主党の蓮舫参議院議員が無所属で立候補する意向を表明した。さらに28日、都民ファと公明党の都議団が小池知事に出馬を要請。都内52区市町村長も同日、連名で立候補を要請していた。

 与党・都民ファと、「ステルス応援団」と呼ばれる自民党・小池支持派などによって、舞台装置はこのように、ほぼ完全に準備されていたのだ。

6月12日に表明か?

 にもかかわらず、29日の表明はなかった。注目の都議会本会議には、「もしや」とばかりに多くの報道陣が詰めかけたが……。

 小池氏は8年前、知事就任の最初の都議会で次のような所信表明を行なっている。「今の都民のために、そして未だ見ぬ100年後の都民のために、働かなくてはいけない。(中略)『これからもっと東京は良くなる』と都民が希望を持てる都政を展開する」と。そして今回の告示前議会の開会日の冒頭発言では、この自身の最初の所信表明演説を引き、「この決意は一瞬たりとも揺らいだことはない。とりわけ新型コロナウイルスとの1200日に及ぶ闘いは、都民の健康と命を守り抜くために、全身全霊を傾けた日々」だったと自画自賛した。

 2期8年間の自らの実績を次々と披露した所信表明は30分間に及び、「都民が第一、『都民ファースト』で推し進める東京大改革の先にこそ、明るい未来は拓かれている」と括った。

 5月は表明がないままに過ぎ、次の出馬表明の時期は「今議会の会期末(6月12日)になるのではないか」(都民ファ幹部)との見方が有力だ。焦らし作戦とも言えるし、「カイロ大学卒業は本当なのか」といういわゆる「経歴詐称疑惑」が追及されにくい、自らにとって最も有利な「時と場」を測っているとも言えそうだ。

 小池氏と蓮舫氏の戦いが今回の首都決戦の焦点となる中、小池陣営では、どのような選挙戦を展開しようとしているのか。都民ファの尾島紘平幹事長は小池都政の具体的な実績のうち大きなものとして、新型コロナ対応を強調する。

「東京都は人口比で言うと、コロナによる死者が非常に少ない。医療提供態勢、ワクチン接種態勢、あるいはPCRの検査態勢といったハード面の整備をかなり手堅くやっていたからだ。その間、知事は一日も休んでいなかった。『密です』『ソーシャルディスタンス』とかの言葉をいち早く普及させ、知事としてのメッセージの出し方が秀逸だった」

 もう一つの大きな実績として、尾島幹事長が挙げるのが「子育て支援策」だ。

「就任直後から取り組み、保育園の増設、保育士の処遇改善、都有地を使っての保育園の用地確保……。あらゆる手立てを使って、待機児童の解消に全力を注ぎ、都内の待機児童はほぼいなくなった」と宣伝する。蓮舫陣営からの批判的評価は正反対だが……。

「新型コロナの5類移行後」については、小池氏が環境やエネルギーなどの中・長期的な問題に取り組む姿勢を強め、「政策の力点に変化が見られる」と指摘する。

 では、どこが選挙戦のキーポイントになるのだろうか? 尾島幹事長は「これはシンプルに、都民ファーストであるかどうか。都民ファーストの都政を継続するか否か、という点です」。

「蓮舫さん都政に興味は」

 5月27日の蓮舫氏の出馬会見について、尾島氏は「立派な方だとは思うが、都政で何をやりたいのかわからなかった。国政の話、自民党の政治とカネの話、政権批判をずっと言っていて、申し訳程度に都政の話をしていた。蓮舫さんは都政に興味がないのではないか。われわれは1400万人の都民一人ひとりの生活と向き合っているわけで、都議会は国における政治とカネの問題を議論している場ではないし、共感する有権者はいないのではないか」と批判する。

 ある与党都議は「しっかり選挙をやって、しっかり勝ちたい。蓮舫さんには東京都で、どんな予算をつくってどんな政策をやるのかを示してもらい、どんな街をつくるのかの論争になってほしい。小池さんの8年の実績は有権者に十分アピールする。僕らは組織や団体を見ていない。有権者にちゃんと伝わっているか、という選挙になると思う」と話す。

 都議会最大会派である自民党は、独自候補の擁立を見送り、小池氏が立候補すれば応援する方向性を会派として確認している。5月28日には会派幹部と小池氏が会談し、知事選での連携を確認したとみられる。ただ、政治とカネの問題で自民党に吹く強い逆風で、自民党が前面に立つような選挙にはなりにくい情勢だ。

 前回の2020年都知事選で歴代2位の約366万票を獲得して、圧勝した小池氏。その後の都内で行なわれた選挙でも、支援した候補が当選を果たすケースが多かったが、最近になって、支援した候補が敗れるケースが目立っている。「小池氏のパワーに陰りが見える」との指摘が出る所以だ。

 今年4月の衆院東京15区(江東区)補選で、小池氏は無所属で立候補した乙武洋匡氏(48歳)を全面的に支援。昨年12月の江東区長選で、小池氏が擁立を主導したとされる元東京都部長が当選を果たした実績もあり、小池氏による乙武氏支援は、かなりの票につながるとの見方が強かった。

 同補選を取材していた筆者は、江東区内で小池氏が乙武氏と一緒に選挙カーに乗り込み、自らマイクを取って懸命に乙武氏への投票を呼び掛ける姿を何度も見かけている。「乙武氏は、まさに小池氏が擁立した候補だ」と実感させる情景だった。しかし、乙武氏は当選を果たせないばかりか、5位の得票に終わった。支持者らの予想を大きく裏切る結果となった。

 さらに5月26日に投開票された都議補選(目黒区選挙区、被選挙数2)では、小池氏支援の自民候補に対し、立憲候補がダブルスコアに近い票差でトップ当選し、自民候補は3位で落選している。

 小池流〝神通力〟は今なお有効か。強敵・蓮舫氏との間の戦いで真価が問われている。

(『週刊金曜日』2024年6月7日号)

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