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東電「強制起訴」裁判の告訴人らが草野耕一判事を批判

明石昇二郎|2024年6月11日6:57PM


2011年3月に発生した東京電力福島第一原発事故を引き起こした者たちの刑事責任を問う「東電強制起訴刑事裁判」はいま、原子力ムラと裁判所の〝蜜月ぶり〟を浮き彫りにしつつ、再び注目を集めている。

1月30日、最高裁正門前で集会を開く福島原発告訴団と福島原発刑事訴訟支援団のメンバー。(撮影/明石昇二郎)


 強制起訴刑事裁判に至る振り出しは、東電の勝俣恒久元会長(84歳)ら旧経営陣に対し、1万3000人以上の市民が行なった刑事告訴・告発だった。これに対し、告訴・告発状を受理した東京地方検察庁が13年9月に出した結論は「不起訴処分」。納得しない市民らは検察審査会に異議を申し立て、同審査会は二度「起訴」議決を出す。そして16年2月、勝俣元会長ら3人は業務上過失致死傷罪で東京地裁に強制起訴された。

 この刑事裁判では、東電の津波対策を担当していた東電社員らが証人として出廷。政府の地震調査研究推進本部(推本)が02年に公表していた津波地震予測「長期評価」を受け、東電社内で計画されていた津波対策が経営陣の圧力で次々と先送りにされていく経緯が、電子メールのやり取りなどをもとに生々しく再現される。旧経営陣が強制起訴されなければ闇に葬り去られていたはずの〝人災〟を裏付ける事実が、白日の下に晒されてきた。

 それでも、勝俣氏らは一、二審で無罪となり、現在は最高裁判所の第二小法廷で審理されている。最大の争点は一、二審の裁判官らが揃って科学的根拠に乏しいと断じた推本「長期評価」の信頼性だ。

 裁判所はこれまで、太平洋沿岸への大津波襲来を的確に予測していたわが国最高峰の地震学者らの科学的知見を真っ向から否定し、予測できなかったことこそが権威の判断であり、当時の最新の科学的知見であるとする地震学者らが唱える〝役立たずの科学〟の側に軍配を上げていた。

 だが一般の市民にしてみれば、防災の役に立たない「地震学」など何ら有難味がなく、命の危険さえ招くものでしかない。市民の考える常識(社会通念)と司直(検察および裁判所)のそれは、かくもかけ離れている。

 この「長期評価」は、福島第一原発事故で避難した住民らが国に損害賠償を求めた22年6月17日の最高裁・国家賠償請求訴訟の判決でも信頼性を否定され、最高裁は「国に賠償責任はない」としていた。裁いたのは、現在刑事事件の審理を担当しているのと同じ、最高裁の第二小法廷だった。

「原子力ムラ」裁判官

 東電旧経営陣を刑事告訴した「福島原発告訴団」は現在、最高裁第二小法廷を構成する裁判官たちに注目。国の賠償責任を否定した22年6月の最高裁判決にも関わっていた草野耕一裁判官に対し、強制起訴裁判の審理から外れるよう求める署名運動を展開している。

 草野氏は、19年に最高裁裁判官に就任するまで、東電に対して法的アドバイスをしている大手法律事務所のひとつ「西村あさひ法律事務所」(旧名・西村ときわ法律事務所)の代表パートナー(代表経営者)だった。前述の「最高裁・国賠訴訟」でも「国に賠償責任はない」とする多数意見に与していた。つまり、原子力ムラに片足を突っ込んでいるような草野氏が関わる裁判では、中立と公正がまったく担保されない――というのである。

 最高裁の現役裁判官を名指しで批判する署名運動が始まるきっかけは、月刊誌『経済』(新日本出版社)23年5月号に掲載されたジャーナリスト・後藤秀典氏執筆の記事「『国に責任はない』原発国賠訴訟・最高裁判決は誰がつくったか」だった。

 同記事は、経済産業省や原子力規制庁等の政府機関と、東電や東芝、三菱重工業、日立製作所といった原発関連企業、そして大手法律事務所と最高裁が、実際の裁判や人事交流などを通じて深く結びついている実態を暴いたものだ。

 前掲の大手法律事務所「西村あさひ法律事務所」の顧問を務める元最高裁判事の弁護士が、かつて最高裁で部下だった現役の最高裁判事が裁判長を務める「国賠訴訟」に対し、推本「長期評価」の信頼性を論難する意見書を出して〝圧力〟をかけていた事実など、大手法律事務所や最高裁までが今や「原子力ムラの一員」と化している現実を赤裸々に描いていた。

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