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鹿児島県警が不正追及のメディアに強制捜査 踏みにじられた「取材の自由」(上)

長谷川綾・『北海道新聞』記者|2024年6月14日6:51PM

【流れを変えた「漏洩」文書】
 だが、藤井巡査長が「漏洩」したとされる県警の内部文書が、流れを変えた。事件の発生、告訴状の受理、取り調べの日時などを記録した「告訴・告発事件処理簿一覧表」だ。

昨年10月25日のニュースサイト「ハンター」の記事で掲載された鹿児島県警の「告訴・告発事件処理簿一覧表」。

 ハンターは23年10月25日、「独自に入手」した「処理簿一覧表」2枚をもとに、不当な捜査指揮が行なわれた二つの疑惑を報じた。1枚は、強制性交事件のもの、もう1枚は、男性職員が、被害を訴えた女性の雇用主を名誉毀損で刑事告訴した事件のものだ。

 記事では、この2枚を詳細に分析し、男性職員が、強制性交事件の「被疑者」として取り調べを受けた23年1月28日、2月24日の同じ日に、名誉毀損事件の「被害者」として「告訴事実に関する聴取」が行なわれた記録を発見。「捜査員が被疑者に『あなたがやったんですね!』と追及しながら、一方で『被害にあわれて大変でしたね』と告げることになる茶番だ」と批判した。男性職員の父親が中央署に勤務していたことから、その中央署の強行班係に、被疑者と被害者になる両方の告訴事案を担当させていたことは「捜査指揮に問題がある」という複数の警察関係者の話を紹介した。

 もう一つの疑惑は、男性職員が「名誉毀損」で刑事告訴した事件が、本来は県医師会館がある鹿児島西署の管轄なのに、強制性交事件の捜査をしている鹿児島中央署に移され、捜査の公平性が阻害されたというものだ。

 記事では名誉毀損事件の「処理簿一覧表」にある「処理経過」に、2022年(令和4年)3、4月の出来事として、「R4.3.31 10:00 告訴相談受理、鹿児島西署管轄と判明」「R4.4.11 上層部から当署で処理方針との伝達がなされた」の2行の記述が、警察幹部からの「不当な捜査介入の証左だ」と伝えた。

 二つの疑惑について、今年3月の県議会で県警は次のように否定した。

 所管が西署から中央署に移った件について「よくあることか」と問われ、「告訴を受理した警察署で処理するのが基本だが、他の警察署で受理、処理したほうがいい事情があれば、事件を移すこともあり得る」(川崎清刑事企画課長)。

 被疑者と被害者が同一人物で、同じ署で捜査をすることは「普通か」との質問に対しては「被疑者、被害者を同じ取調官が取り調べをすることはあり得ないことではない」(同)。

 ハンターの取材では、「上層部」から指示がされたという「処理簿一覧表」の記述について、どの警察関係者に聞いても「こんな書き方は見たことがない」と口をそろえたという。中願寺さんは言う。「捜査指揮に問題があると現場の警察官も考え、あえて記録したのではないか。この2年報じてきた強制性交事件のもみ消し疑惑が、警察の内部資料で裏付けできた。これは『公益通報』以外の何ものでもない」

【鹿児島県警の情報「漏洩」事件と強制性交事件を巡る経緯】(取材や報道を基に筆者作成)
2021年
8~9月 鹿児島の新型コロナ宿泊療養施設で、県医師会職員の男性が、看護師の女性に複数回の性的行為を行なう

2022年
1月17日 強制性交の疑いで女性が刑事告訴
9月27日 県医師会が記者会見で「合意があった」と述べ、男性職員の停職3カ月の懲戒処分発表。職員は10月末に退職

2023年
2月1日  女性が元職員に損害賠償を求めて鹿児島地裁に提訴
3月8日  強制性交事件の捜査指揮の問題を参院予算委で塩村あやか議員(立憲)が質問
6月9日  県医師会の元職員を強制性交の疑いで書類送検
6月12日 県警公安課の藤井光樹巡査長が個人の犯罪経歴情報を第三者に送信した疑い
10月25日 ニュースサイト「ハンター」が、県警の「告訴・告発事件処理簿一覧表」2枚を掲載し、強制性交事件で「不当な捜査指揮があった」と報道
12月22日 鹿児島地検が県医師会の元職員を嫌疑不十分で不起訴処分

2024年
1月31日 女性が検察審査会に申し立て
3月11日 藤井巡査長が「処理簿一覧表」を印字した数十枚分の書面を第三者に送付した疑い
3月12日 県警が「処理簿一覧表」の流出認める
3月16日 講談社のネットメディア「現代ビジネス」がハンター掲載のものも含む「処理簿一覧表」を掲載し、他に100件超の捜査資料を入手と報道
3月28日頃 本田尚志前生活安全部長が鹿児島で内部告発文書を投函
4月3日  札幌のジャーナリストに県警の不祥事隠蔽を告発する匿名の投書が届く
4月8日  藤井巡査長を地方公務員法違反の疑いで逮捕
      福岡で「ハンター」を家宅捜索し、パソコン、スマホなどを押収
      鹿児島で、強制性交被害を訴えた女性の雇用主のスマホを押収
4月18日 「ハンター」代表に「被疑者として取り調べる」と県警が告知
4月21、23日 「ハンター」代表を地公法違反の疑いで県警が事情聴取
5月31日 本田前生安部長を国家公務員法違反の疑いで逮捕
6月5日  本田前生安部長が「野川本部長の不祥事隠蔽」を証言
6月7日  野川本部長が隠蔽を否定

(『週刊金曜日』オンライン限定 2024年6月14日配信 政治時評特別デジタル版)

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