静岡県知事選は野党系の鈴木康友氏が自民党推薦候補ら破り当選
井澤宏明・ジャーナリスト|2024年6月18日8:19PM
川勝平太氏の突然の辞職に伴い5月26日に投開票された静岡県知事選挙は、前浜松市長の鈴木康友氏(66歳)=立憲民主党、国民民主党推薦=が72万8500票を獲得。65万1013票の元副知事・大村慎一氏(60歳)=自民党推薦=ら5候補を破って初当選した。投票率は52・47%と、前回の52・93%を0・46ポイント下回った。
「与野党対決」「地域対決」が注目された今回の知事選。リニア中央新幹線のトンネル掘削により大井川の水が減ったり南アルプスの自然環境が壊されたりすることを危惧した川勝前知事が認めてこなかった県内着工の行方にも焦点が当たったが、両氏とも「リニア推進」。リニア建設中止を訴えた森大介氏(55歳)=共産党公認=は10万7979票を集めた。
リニアをめぐる候補者の主張に変化が表れたのは5月15日、岐阜県瑞浪市大湫町でリニアのトンネル掘削工事により共同水源などの水枯れや水位低下が発生していることが大きく報道されてからだ。
最も「ブレ」たのが大村氏。5月9日の告示日、静岡市役所前で開かれた第一声では、応援演説した髙橋明彦・静岡商工会議所副会頭が「失われた県政15年」と川勝県政を酷評したのに呼応し、大村氏は「県民不在の県政から県民の手に県政を取り戻したい」とキッパリ。「リニア推進 早期解決5つの約束」と記したフリップを示し「スピード感をもって1年以内に結果を出す」と主張。集まった支持者を沸かせていた。
ところが『中日新聞』などの報道によると、掛川市で18日に開かれた演説会では「1年以内に結果を出す」と記したフリップの上に「大井川の水と環境は絶対守ります」と書いたステッカーを貼り、「『1年以内』はいったんストップする」と宣言したのだという。
裏金問題で自民党に逆風が吹く中、応援に駆け付けた〝次期首相候補〟上川陽子外務大臣(衆議院静岡1区)の失言にも足を引っ張られた。静岡市内で18日、自身の女性支援者らが集まる集会で行なった大村氏の応援演説で「一歩を踏み出したこの方を、私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」と発言、翌19日に撤回した。
大村氏は敗戦の弁で……
26日午後11時半過ぎ、「鈴木氏当確」の報を受け、静岡市葵区の会場に姿を現し、支持者に深々と頭を下げた大村氏。直後のインタビューで「川勝知事のリニア対応に否定的だったことが、選挙結果に影響したのでは」と筆者が問うと「私は川勝知事の県政について全否定したこともないし、リニア対応について否定したつもりもない。水と環境を守りながら前進すべきだと言ってきた」と答えた。
これに対して、静岡市内の大村氏の選挙事務所入口カウンターに「川勝平太 歴史に残る汚名」と題する月刊誌記事のコピーが山積みされていたことを指摘すると「時間がなくてほとんど読んでおりませんので」とシラを切った。
さらに「1年以内に結果を出す」という公約を岐阜の水枯れにより撤回した影響を問うと「(JR東海との)信頼関係が得られることがわかるまではストップしようと申し上げたので、選挙戦に影響したとは必ずしも思っていない」。
一方、新知事となった鈴木氏は29日の就任会見で、リニア問題について「県とJR東海、国、大井川流域の市町の連携のもとに一つ一つの課題をクリアしていくことが大事」と、安全運転で始動。
JR東海が山梨県側の県境近くで再開した高速長尺先進ボーリングについては「一般論として調査は進めていくべき」としたが、岐阜県への水枯れの報告が遅れた件には「不信を広げることになりかねない。悪いことは早く報告するのが鉄則だ」と苦言を呈した。
どうしたら県内着工にゴーサインを出すのか問われると「今出ている課題にしっかり解決策が示され、それに各主体が合意して、特に流域市町の皆さんの不安がある程度、解消されることが必要」としつつ「最後はどこかで政治的な決断が必要。そこまではできるだけ皆さんに納得していただける努力をすることが前提」と述べた。
(『週刊金曜日』2024年6月7日号)