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リニア中央新幹線工事差し止め訴訟、山梨・甲府地裁は住民の請求棄却

樫田秀樹・ジャーナリスト|2024年6月18日8:30PM

「原告らの請求をいずれも棄却する」

 5月28日、山梨県甲府地裁。敗れたとしても原告の訴えをある程度は認めるはずと予想していただけに、新田和憲裁判長による判決言い渡しに、傍聴席から「あー」と小さなため息が聞こえてきた。

判決後の報告集会で。左から梶山正三弁護士、志村一郎原告団長と他の原告5人。(撮影/樫田秀樹)

 リニア中央新幹線(以下、リニア)の工事差し止めを求め山梨県南アルプス市の住民6人が提訴したのは2019年5月8日(※注)。

 当地のリニアのルートは高さ20メートル以上の高架橋だ。6人が所有する家屋や工場や田畑を横切るか、間近を通る路線計画となっている。そのため、原告によっては「暮らしていけない」ほど切実な問題と向き合うことになる。

 原告の一人、秋山美紀さんは自宅の庭の角をリニアルートが通るが、家屋には掛かっていない。そのため、JR東海は切り取られる庭の角だけ補償するが、秋山さんが求める移転補償には応じない。リニアが開業すると秋山さんは終日、騒音と振動と日陰の中で暮らすことになる。志村一郎原告団長の田畑はリニアルートが横切る部分は補償されるが、高架橋の北側の日陰部分への補償はない。

 そして、どの原告も心配するのはリニア通過による不動産価値の下落だ。秋山さんが引っ越そうと思っても、今の立地では誰もその家屋を買うはずがない。

 原告は、その予期される被害を幾度も裁判で訴えた。また、梶山正三弁護士は県内のリニア実験線周辺で実際に起きる日照阻害、騒音や振動の問題を確認してもらうため、口頭弁論のたびに現地検証を要請したが、一人目の裁判長だった鈴木順子裁判長は応じず、秋山さんは「あんなに暖簾に腕押しなら、もう原告をやめる」とまで思った。だが、22年4月から交代で就任した二人目の新田裁判長は、当初から現地検証の要請に意欲を見せ、実際に23年9月には実験線周辺と原告居住地周辺の2カ所で実施。原告が求めた証人すべてに尋問も認めた。この姿勢に、原告6人は「この裁判長は期待ができる」と捉えた。

 しかし昨年12月末の結審から5カ月もかけて書いたはずの判決文を読むと、そこに原告の主張はまったく認められていなかった。

原告はすぐに控訴を表明

 判決で裁判所はまず「(リニア工事には)高度な公共性、公益性が存在する」と認め、騒音については「何かしらの騒音被害が生じる」としながらも「騒音レベルは新幹線環境基準(の70デシベル)を下回り、JR東海が家屋の防音工事等の措置を講じる」ので、工事を差し止めるまでの「違法性が存在するとは認められない」と結んでいる。振動についても「一定の振動による被害が生じる」と認めながらも「被害の危険性が存在すると認めるだけの証拠はない。差し止めるだけの違法性は存在しない」としている。

 また、たとえば秋山さん宅から見える富士山がリニア高架橋で見えなくなるなどの眺望喪失の問題も「原告は住宅地に住み、複数の住宅が隣接しているのだから、眺望が法的に保護される対象とは言えない」と、秋山さんにすれば「あんまりだ」との判断をしている。

 日照阻害にしても、JR東海が「補償(筆者注:照明代金やストーブや燃料の購入費など最大で30年間の補償)を講じる」から違法行為ではないとした。

 どの原告にも共通する不動産価格の下落については「リニア工事で不動産価格が下落している」と認めつつ「賠償や補償で補える」から「原告の受忍限度の範囲にとどまる」と結論付けた。

 つまり、原告の訴えは何一つ認められなかったのだ。

 判決後の報告集会では、どの原告も「これほどひどい判決とは思ってもいなかった」「落胆した」と、新田裁判長に期待した分だけやるせなさをにじませていた。

 ただし判決1週間前、原告6人は「もし敗訴だったら」に備えて話し合いを行なっていた。そこで出た結論は「闘い続ける」だった。

 はたして判決当日の5月28日、原告は控訴を決めた。闘いの場は東京高裁に移る。

※注:本訴訟の経過は『週刊金曜日』2019年5月17日号、昨年11月10日号などで詳報、「週刊金曜日オンライン」で公開中。

(『週刊金曜日』2024年6月7日号)

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