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「地方自治法改定案」想田和弘

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員|2024年6月18日7:13PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 地方自治法の改定案が今国会に提出され、審議されている。法案には、感染症や災害などの「重大な事態」が発生した際に、個別の法律の根拠がなくても国が自治体に「指示」を行なうことができるという特例が盛り込まれている。「緊急事態の際には自治体は国の言うことを聞け」というわけだ。

 このニュースを耳にした際、真っ先に思い出したのは、能登半島地震のときの中央政治家たちの対応である。

 自民、公明、立憲、維新、共産、国民の6党が、震災発生から4日後に党首会談を開いた。そして国会議員による被災地視察について、当面自粛することを申し合わせたのである。自粛を提起した維新は「救助活動や支援物資輸送の妨げになるのを避けるため」と理由を説明し、岸田首相は「自分自身も見合わせている」と応じたという。

 まるで被災地へ行かないことが「大人の冷静な対応」のような口ぶりに、僕は心底驚いた。首相や大臣、国会議員が現地を見ずに、どうやって被災地の状況を把握し、適切な対応が取れるというのか。救助活動や輸送の邪魔にならない方法など、いくらでもあるだろうに。何もしないことの言い訳にしか聞こえず、耳を疑った。

 実際、能登半島の復興は、過去の震災に比べて、大幅に遅れている。その遅れ方を見ていると、岸田政権は住民が故郷を諦めて都市部に移住するのを待っているのではないかとさえ、疑いたくなる。

 というのも、被害の大きかった珠洲市や輪島市、能登町、穴水町などは「過疎」に指定されている地域である。高齢者が多く、震災がなくても人が減りつつあった。そうした地域を多額のお金をかけて復興させるよりも、いっそのこと人が住まなくなった方が安上がりだ――。政治家たちがそう考えているとしても、不思議ではない。少なくとも、そういう疑念が拭えない。

 事実、能登の6市町では人口流出が加速し、1月1日~3月1日の転出超過は前年同時期の約5・5倍だったという。これを政権の目論み通りだと評したら、言い過ぎだろうか。

 いずれにせよ、現地の状況にも人にもコミュニティにも無関心な岸田政権が地方自治法を改定し、権限だけを持とうとしていることに、恐ろしさを感じている。過疎に指定された小さな街に住む僕は、そういう恐怖を自分ごととして感じている。

(『週刊金曜日』2024年6月7日号)

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