「弱者に冷たい小池都政の転換を!」宇都宮健児
聞き手・まとめ/尹史承(編集部)|2024年6月20日2:23PM
2020年の東京都知事選では小池百合子氏に次ぐ票数(約84万票)を集め、今回は蓮舫氏を擁立した「市民と野党の候補者選定委員」を務めた弁護士の宇都宮健児氏が小池都政の本質に迫る。
――2024年度の東京都の予算についてお聞かせください。一般会計だけで8.5兆円にものぼります。
東京都の24年度予算は一般会計、特別会計、公営企業会計含め、16兆5584億円にのぼり、過去最大になりました。これはスウェーデンの国家予算並です。景気が上向き、都内に一極集中する大手企業の業績が上がり、法人からの税収入が伸びているのが主な要因です。そして物価が上がるということは、消費税などの税収も増えるわけです。税収も過去最大です。
予算は福祉と雇用に
――小池都政は湯水のごとくカネを使っています。蓮舫氏は街頭演説で「洗いがいがある」と述べ、都政での事業仕分けに意欲を見せました。
地方自治法では、地方自治体の役割を「住民の福祉の増進」と定めています。都政の役割とは、外国人を含む都民一人ひとりの命と暮らしを守ることです。この予算が都民一人ひとりの命と暮らしを守るために適切に使われているかどうかは甚だ疑問であります。
小池都政は弱者に非常に冷たいのです。
――蓮舫氏は「仕分けし、予算に余剰が生まれるなら福祉、雇用に回したい」と述べていましたが。
“余剰が生まれたら”ではなく、優先して福祉と雇用に予算を割かなければならないのです。
関連事業を含め、2年で48億円という大金を計上した都庁でのプロジェクションマッピングが話題になっていますが、毎週土曜日の午後、その都庁の第一本庁舎の横では、「新宿ごはんプラス」が生活困窮者に向けて食料品配布をしています。コロナ前は毎回70人ほどでしたが、いまは毎週800人近くが並んでいます。
そのほとんどが路上生活者ではなく、年金生活者、生活保護利用者、シングルマザー、非正規労働者の若者なのです。この物価高で彼らの生活がたいへん厳しくなっています。本来は都が生活困窮者に弁当や食料の配布をするべきです。あるいは、そういう支援団体を支援するべきなのに、そういうものに冷たい。この現実から目を背け、大企業ばかりに目を向け、その事業に莫大な予算をかけてきたのが小池都政なのです。
大量の樹木を伐採する明治神宮外苑の再開発問題や、日比谷公園や築地市場の再整備計画にもすべて大企業が絡んでいます。各地で地域住民による反対運動が起きていますが、小池氏にはその声に耳を傾ける姿勢が欠けています。
入札停止の「電通」が受注
――大企業優先の「自民党政治」のようですね。
間違いなくそうでしょう。都は隠していましたが、このプロジェクションマッピング事業には「電通」が絡んでいることが明らかになりました。
電通は東京五輪をめぐる談合事件で、2024年8月8日までの入札指名停止処分を受けた企業です。そのグループ会社「電通ライブ」がこの事業の運営をしているのです。指名停止企業の100%子会社に公的機関が事業を発注することは、異常なことです。
電通を使うということは、また何らかの癒着や不正があると市民から疑われても仕方がないでしょう。東京五輪のときの談合はもちろん、コロナのときは持続化給付金事業の中抜きや政党へのキックバック献金が問題になりました。
――東京都は五輪の総括をせず、同じことを繰り返していますね。
負担は都民です。都の税金を使って行なうイベントで贈収賄や、大企業と談合をやっていたのだからとんでもないことです。
そして「負のレガシー」(赤字施設)の後始末でこれからも都民の負担は続いていくのです。
――税負担でいえば、東京に暮らす外国人も納税をしていますが、外国人に対する福祉政策はどうでしょうか?
小池都政は、外国人というマイノリティに対しても冷たいです。
いまだに朝鮮学校の補助金支給を凍結しています。その一方で、「こども基本条例」というものを東京都は作りました。国連の「子どもの権利条約」に日本は批准していますから、その理念にのっとって作られた条例です。
子どもを差別してはいけないというのはかなり重要な柱のひとつで、肌の色や、民族、宗教問わず、子どもの最善の利益を守っていかなければなりません。そのような条例を自ら作りながら朝鮮学校への補助金はあいかわらず凍結しています。この不誠実さが小池都政の特徴なのです。
また、最近では、一度入管に収容され、仮放免になっている外国人の多くが反貧困ネットワークに相談にきています。難民申請をしているが、仮放免の外国人は働いてはダメだと言われるのです。就労禁止なのです。収入がないから生活保護を利用できるかといえばできない。健康保険に入っていないので、病気やケガをしたときは高い治療費を全額自己負担しなければならない。当事者だけではなく、家族も仮放免になっている。
彼らも都内に暮らしているのであれば、都民なのです。都には莫大な予算があるのですから、そういう外国人に対して都営住宅を提供するとか、家賃を補助するとかの政策をとり、福祉を充実させ、もっと人間らしい生活を送れるようにしなければなりません。
――なぜ小池氏はそのような社会的弱者を軽視した政策を取るのでしょうか?
人権感覚が乏しいのです。そして都民ファーストではなく、小池ファーストだからです。
生活困窮者や若者の投票率は低いままですし、外国籍のひとたちには選挙権がありません。そのため、小池氏は、彼らに向けた政策を積極的には採らないのでしょう。しかし私は困難を抱えているひとたちに光を当てるというのが政治の役割だと思っています。
物価・貧困対策に無策
――今回は自民党の裏金問題で、小池氏にも逆風が吹いています。
都知事に初当選した当初は「反自民」として距離をとっていましたが、いまは自民党とは密接に選挙協力をする関係です。
裏金問題ですが、表面的にはそれが一番政治不信が極まるきっかけになっていると思います。しかし大きな背景としては、物価高による市民の生活苦があります。春闘での賃上げは大企業の正規労働者のみ。労働者の約4割を占める非正規労働者は賃金が上がっていないし、同じく約7割を占める中小企業の労働者もそうです。年金も下げられている。そのため、ホームレスではないひとびとが生きるために食料を求めている現実があるのです。それが自民党の裏金問題への怒りを倍加させています。市民が増税や物価高で生活困窮している傍らで、自民党は裏金で「脱税」をしていました。
そして彼らは物価対策や貧困対策には無策なのです。
――蓮舫氏は、「政治とカネ」の自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットすると述べていますが、彼女に期待することは?
弱者の視点と人権を大切にしてもらい、悪しき都政の転換をはかってもらいたいです。
(『週刊金曜日』2024年6月14日号)