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小池都政でも教職員を抑圧 「日の丸・君が代」は強制から「当たり前」に
永尾 俊彦・ルポライター|2024年6月20日2:52PM
「何も聞けない、言えない、逆らえない。『日の丸・君が代』の起立斉唱は教員にとっても生徒にとっても『当たり前』になりました」
東京都立高校教員の山田順子さん(仮名、60歳)はこう話す。
石原慎太郎都政下の2003年、東京都教育委員会からの「10・23通達」で都立学校校長が教職員に卒・入学式などで国歌の起立斉唱の職務命令を出して以降、16年に就任した小池百合子都知事も継承、息苦しさを増幅させた。
山田さんは在日韓国人生徒の家庭訪問で、生徒の母親から戦中戦後の苦労話を聞き、とくにアジアにルーツのある生徒には起立斉唱を強制すべきではないと確信、2回の不起立で戒告処分を受けた。都立学校も外国にルーツを持つ生徒が増えているのに「生徒の人権侵害です」と山田さんは言う。
大能清子さん(64歳)は定年退職後に再任用されたが、1年を残して今年3月に打ち切られた。生徒の人権を守るため、大能さんも不起立で3回戒告処分を受けたからだ。今の生徒たちは小学校から起立斉唱は当然と刷り込まれ、少数だが確実にいる起立したくない生徒は一層抑圧されている。
都教委は、不起立で処分した教員を年金支給の開始年齢引き上げに伴い再任用するようにしたが、一方で年金が出る年度がきたら任期を更新しないとの告知を行ない始めた。大能さんは「資質に欠ける」と4年間告知され続けた。「人格否定です。本当に刺さりましたね」。再任用打ち切りは二重処分で、戒告が免職にも等しいことになる。また、今年度は不起立の処分歴がある教員が時間講師にも採用されない事態が起きている。
都の公立学校の精神疾患での休職者数は増加し、22年度は10年前の約1・8倍。他方、10倍以上あった都立高校教員採用試験の倍率は24年度は2・7倍。都教委は自分で自分の首を絞めている。
ダイバーシティと矛盾
都立特別支援学校の教員、田中聡史さん(55歳)は侵略戦争と植民地支配という民族差別の象徴「日の丸・君が代」の強制を契機に生徒や教員の管理が強まり、都立学校は上意下達の軍隊的組織になったと見る。それは「(小池知事の看板政策である)ダイバーシティ(多様性)と相いれません」。
田中さんは不起立で10回処分された。都教委は式の最中に児童生徒が発作を起こしたような場合でも管理職の許可を得るよう命じ、教員は障がいのある生徒に臨機応変に対応できなくなった。
19年、国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(UNESCО)の教職員勧告適用合同専門家委員会(CEART)は、日本政府に「障害を持った生徒および教員ならびに障害を持った生徒を支援する者のニーズに照らし、愛国的式典に関する要件を再検討すること」との勧告を出した。
また、国連自由権規約委員会も「思想及び良心の自由の効果的な行使を保障」することなどの勧告を22年に出している。だが、都教委は「(勧告に)答える立場にありません」と繰り返し、小池都政は国際水準に背を向ける。
都教委から停職、減給、戒告の処分を受けた教職員は延べ484人。前述の3人を含めた教職員らは処分取り消しを求め、東京「君が代」裁判5次訴訟を闘っている。
筆者は、定例記者会見に3回出席(新型コロナ以降、現在フリーランスはリモート参加のみ)、手を挙げ続けたが指名されなかったので、3回目は強引に割り込み、「知事のおっしゃる『ダイバーシティ』には思想、良心、信仰の自由も含まれるのですか」と質したことがある(18年2月16日)。
だが知事は、黙殺した。
(『週刊金曜日』2024年6月14日号)