「木を切る改革」大阪市が市民の反対押し切り街路樹伐採を強行
平野次郎・フリーライター|2024年6月27日9:15PM
大阪市が街路樹・公園樹の安全対策事業として倒木などのリスクがある樹木約1万9000本の伐採・撤去を進めていることに対し、健全な樹木も撤去対象になっているとして市内各所で市民が伐採に反対している(本誌1月19日号既報)。その後も市が伐採を続行する中で、撤去理由が曖昧だとして街路樹と公園樹の各1カ所で市と市民の協議が年度を越えて続いている。だが、街路樹は4月末に市が突然伐採を強行し、公園樹も市が協議を打ち切って伐採を強行しようとしている。
大阪市緑化課によると、安全対策事業では街路樹を2018~24年度に約1万2000本、公園樹を20~23年度に約7000本それぞれ伐採・撤去する。街路樹・公園樹とも撤去対象を公園事務所職員の判断で選定し、公園樹の一部は樹木医の健全度診断を参考に職員が判断した。23年度は街路樹1060本、公園樹1662本を撤去する予定になっていた。
街路樹撤去で市と市民が協議しているのは、大阪市南東部の阪神高速高架下・大阪松原線の阿倍野、東住吉、平野各区にかけて並ぶすべてのアメリカフウ204本。樹木に貼られた撤去理由は「根上がり・根の生育不良等」か「視距阻害等(車道や歩道からの見通し不良)」で、約9割が後者を撤去理由にしている。
今年1月に阿倍野区52本の伐採が終わって東住吉区113本と平野区39本の伐採が始まると、東住吉区の市民から疑問の声が上がり、1月末と3月初めに長居公園事務所による現地説明会が開かれて伐採は保留になった。市民らは「撤去理由が曖昧で納得できない」「視距阻害は剪定すればすむことだ」「伐採ありきですべて撤去はおかしい」などと指摘。市側は撤去理由について説明ができず、市民らは撤去理由の根拠や証拠を示す資料を求めていた。
ところが4月末になって市は突然、東住吉区の残り約90本の伐採を再開。5月2日には現場で抗議する十数人の市民の中の1人が伐採業者の前に立ち塞がり、アメリカフウ3本だけが伐採を見送られ、協議が続いている。
こうした動きに対し「大阪市の街路樹撤去を考える会」の谷卓生さんが「大阪松原線の街路樹撤去の判断根拠やプロセスの検証を求める陳情書」を市議会に提出。5月23日の市議会建設港湾委員会で中村浩一・長居公園事務所長は「道路交通の安全確保のために1本ずつ植栽環境を確認した資料をもとに選定した」と述べたが、撤去の判断根拠を示さなかった。
市側「最後は行政が判断」
一方、公園樹撤去をめぐって協議が続いているのは、扇町公園(北区)のケヤキ、クスノキ、イチョウなど計56本。市の説明会は1月に続いて2月末にも開かれたが、市民側が納得できる説明がないまま協議は12時間半に及んだ。
5月24日に3回目の協議が扇町公園事務所で開かれた。参加者30人、協議時間2時間に制限された中で、市民らから「遠足の小学校どうしで木陰の取り合いになっている。樹木が切られると熱中症が心配」「市民の共有財産である樹木を行政の判断だけで伐採していいのか」などの意見が相次いだ。
こうした意見の中で最も疑問視されているのが、樹木医の健全度診断で「保存」「剪定」と判定され「伐採」の必要性がないとされた24本が撤去対象になっていることだ。撤去理由について市側が「樹皮欠損や腐朽、根上がり、植栽環境など総合的に判断し、将来的なリスクを考えた」と繰り返すのに対し、市民らは撤去判断の基準を提示するよう求めた。市側は基準について説明できないまま、松本直己・扇町公園事務所長が「協議は続けるが、最終的に行政が判断する」と述べ、強硬姿勢を変えなかった。
協議後の会見で、筆者は「健全な木まで切る維新市政の『木を切る改革』と揶揄されているが、どうして市民の意見を取り入れて見直すことができないのか」と質問。松本所長は「市民に選ばれた議員による議会で決まったことを実行するのが民主主義だ」と言明した。
(『週刊金曜日』2024年6月14日号)