考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

〈私の「14年間」〉崔善愛

崔善愛・『週刊金曜日』編集委員|2024年6月27日8:37PM

崔善愛・『週刊金曜日』編集委員。

 今国会で「永住資格」の取り消し事由を拡大する「入管法」の改悪案が審議中だ。

 私は日本で生まれ育った永住者だが、この法案には「在留カード」の不携帯だけで永住資格が奪われるなど、外国籍の永住者にとって死活問題が含まれている。永住資格はそれほどまでに軽いものなのか。

 かつて私は26歳から40歳までの14年間、永住資格を奪われた。奪われてみて初めて、それがどれほど心の「安寧」をもたらすものであるかを知った。

 永住資格喪失のそもそもの発端は、指紋押捺拒否だった。1980年代、指紋押捺拒否・留保者は全国で1万人を超えた。法務大臣はこの抵抗に対し、拒否者を「再入国不許可」とし「渡航の自由」を奪った。私は3年間、申請をくりかえしたが「不許可」。やむなく許可を得られないまま、26歳のときに米国へ留学した。

 2年後に帰国した際、新規入国者扱いの「180日の在留許可」となり、「特別永住資格」がなくなっていた。これを訴えた「再入国不許可処分取消・特別(=協定)永住資格確認訴訟」は福岡高裁で一部勝訴したが最高裁で棄却された。

 私の30代はこの裁判と、2人の子どもの妊娠・出産・育児に追われた。さらに子どもが病気になろうと何があろうと180日ごとに、片道1時間以上かかる入管に行かなければならなかった。もし在留期間を過ぎれば「不法滞在者」となってしまう。

 入管の待合室は座る席がないほどいつも人があふれ、仕方なく私は階段に座り何時間も待った。この先、自分の在留はどうなるのか……、その不安を共有する独特な空間だった。もし在留が延長されなければ、どこに行けばいいのだろう、まさかそんなことにはなるまいという思いを反芻した。

 とくに私の場合、法務大臣を相手に前述の裁判をしたことへの嫌がらせか、在留更新は即日発行されず、待たされた数カ月は「申請中」というスタンプが外国人登録証明書に押された。自分の人生に先があるのか見通せず、無気力にもなっていった。

 2000年、指紋押捺制度廃止に伴い、私は特別永住資格を14年振りに取り戻したが、それがなければいまも180日の在留を更新する生活を続けていただろう。

 永住権を永住資格などと権利を資格に格下げし、その資格さえも剥奪できる国家権力を前にして、私は何ができるだろうか。

(『週刊金曜日』2024年6月14日号)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ