国立市のマンション解体は「富士山眺望」よりも「ミス」隠蔽が理由?
薄井崇友・フォトジャーナリスト|2024年7月4日5:02PM
東京・国立市で完成間近のマンションが突如解体決定
「眺望を優先」異例の事態
東京・国立市内にほぼ完成していた新築分譲マンションが、完了検査の目前になって解体が決まるという異例の事態が発生し、地元を中心に波紋が広がっている。
問題の物件はJRの国立駅から南西方向に延びる「富士見通り」を約700メートル進んだ沿道の「グランドメゾン国立富士見通り」だ。地上10階建て、総戸数18戸の規模で7月に引き渡し予定だったが、事業者の積水ハウス(以下、積水)が6月4日に突然、国立市に建設の中止・解体を届け出た。同社は11日「遠景からの富士山の眺望に関する検討が不足していたことが引き起こした事態」であり「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定いたしました」とするリリースを公式サイトに掲載した。
確かに現地では昨年の暮れから建設中のマンションが通りの彼方に望む富士山を隠すようになり、「富士見えず通りだ」と揶揄する声も上がっていた。とはいえ現場は高さ制限のない地域で容積率・建蔽率なども満たしているなど、そこに違法性は見られない。逆に解体で生じる損失は? そもそも計画段階のシミュレーションで富士山が隠れることぐらいわかっていたのでは?との釈然としない思いは残るし、そこから「何か別の理由があるのでは?」との疑問が湧くのも当然だ。
「絶対に解体はあり得ない。ここでそんなことをやれば、あちこちで解体を要求されてとんでもないことになる」と、現場に来ていた元大手ハウスメーカー社員(60代男性、現在は不動産業)は話す。この件での損失額は「数十億円になるのでは?」と推測し「ここの富士山の眺望は損なってはならないと条例に明文化していない市に責任がある」とも語った。筆者(国立に40年在住)が、これまで市民が街の景観を守ってきた歴史などを話すと「積水さんも舐めていたか、傲慢さがあったのでは」との答えが返ってきた。
審議会での気になる発言
実際、このマンションの建設をめぐっては計画当初より地元から反対の声が強くあった。昨年末に富士山が隠れる実態が露見するやSNSなどで情報が拡散。市内に複数ある大学で青春時代を送った人たちからも発信された。中には「街は生きものだし、変化するのは仕方がない」と受け入れる声もあったが、多くは惜しむ声だった。
とはいえ、解体の報道には市民はもとより全国からも驚きの声が上がり「理由が解せない」「話が綺麗すぎる」「何かよほどの圧力があったのでは」との見方もある。
国立市は一定規模を超える事業では、周辺に与える影響を審議会で確認のうえ指導している。この物件に関する審議内容を確認すると、2021年6月23日の審議会議事録に気になる記録があった。積水の設計担当者が審議委員らに富士山の見え方について、資料を示し次のように説明していた。
「写真でちょっと富士山の形状が分かりづらい部分がありましたので、代引きで富士山の形を追記させていただいております」
これに対し委員の一人が「富士山が見えますと、眺望は確保しますということではあるんですけど」と前置きしつつ語る場面を読むと、この時点で事業者プランでは「富士山はマンションに隠れていなかったのでは?」との疑念も湧く。同審議会後、積水はマンションを当初計画の11階建てから10階建てに変更のうえ着工した。あるいは「眺望」よりも「ミス」隠蔽のための解体なのか?
資料確認のため国立市に開示請求をしたところ、担当者は「積水さんから非開示との回答があり、黒塗りの可能性がある」と説明。そこで非開示の理由を積水に取材すると「非開示は市の慣例で積水としては関与していない」と話が嚙み合わず、開示には2週間ほどかかるという。解体が広報発表の通り純粋に「景観保全」を理由としたものならば他地域での再開発をめぐる問題に一石を投じる事例にもなりうると思われるだけに、引き続き取材したい。
(『週刊金曜日』2024年6月21日号)