緊急避妊薬の薬局試験販売 複雑な手順に国連からも改善勧告
古川晶子・ライター|2024年7月5日2:50PM
避妊の失敗や性暴力などによる「意図しない妊娠」を防ぐ緊急避妊薬(アフターピル)は、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)実現に大きな役割を担う。日本では2023年11月末から一部薬局で緊急避妊薬の試験販売が始まった。2181件の利用があり、「今後も医師の診断を受けずに薬局で服用したい」という人が、購入者のうち8割という結果が得られた(24年1月末までの実績を基に厚生労働省が発表)。それにもかかわらず、厚労省は「データが不十分」として試験販売を続け、本格的なOTC化(処方箋なしの薬局販売)への動きは鈍い。
そのため、「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(以下、同プロジェクト)」は6月10日、衆議院第一議員会館で「一日も早いOTC化を」求める院内勉強会を開催した。
同プロジェクト共同代表の染矢明日香さん(NPO法人ピルコン)は「現在、緊急避妊薬は世界約90カ国で薬局で入手できる。日本を除くG7はすべて実施しており、学校や病院などで若者に無料で提供している国も複数ある。有料の場合も800円から5000円程度。それに対して日本は病院での診察が必要で、6000円から2万円」と入手のハードルが高いこと、また国連人権理事会の定期審査でもアクセス改善勧告を受けていることを指摘。「意図しない妊娠の不安を抱えるすべての女性・女の子に緊急避妊にアクセスする権利がある」と、早急なOTC化の必要性を強調した。
勉強会では、同プロジェクト共同代表の福田和子さん(#なんでないのプロジェクト)から、試験販売で緊急避妊薬を購入できなかった人を含む、当事者のニーズ調査の結果が報告された。回答者のうち薬局での試験販売を試みて、薬局で購入できた人は15%と、アクセス改善の余地が大きいことがうかがえる。この調査では、情報発信や複雑な手順などの問題点が浮き彫りになった。
たとえば、緊急避妊薬の妊娠阻止率は、性交後24時間以内で95%、48時間以内で85%、72時間以内で58%、とされており、いかに早く飲むかは最優先事項だ。しかし、「アフターピル」や「緊急避妊薬」という検索では、薬をどうしたら入手できるかという情報ではなく、調査事業が開始するというニュース記事や、まとめサイト等しか出てこなかったという神奈川県の26歳女性の指摘が寄せられた。
「使いたいけど使えない」
また、「現時点では利用者に多くの手順を踏ませている仕様で、『本当は使いたいけど使えない人』はたくさんいる。〝緊急”避妊薬という名称だというのにこの現状では、本当に求めている人の手元に届かないまま」(東京都・27歳)
「避妊に失敗したのだから罰を受けろと言われているのかと思った。もっと手軽に、手に入れられるようになって欲しい」(広島県・45歳)という声もある。
緊急避妊薬についてWHOが提供する最新情報「Family Planning 2022年版」の和訳を手がける平山満紀さん(明治大学教授)は、第3章「緊急避妊薬」を先んじて完成させ、特設サイトで紹介していることを報告(全体の日本語版は24年末完成予定)。「誤解を訂正する」の項で、緊急避妊薬は「思春期の女性を含め、年齢に関係なく使用できる」「中絶を引き起こさない」「健康を害さない」など、日本でOTC化を妨げる際に言われがちな言説が根拠のないものであることを明らかにした。
関係省庁として登壇した厚労省医薬・生活衛生局の担当者は、本格的なOTC化を求める声に対し、「試験販売を継続するにあたり、参加薬局は200件以上増える見込み。実現を遅らせるという意図ではない」と答えた。
この問題に関心を持つ議員も駆けつけた。福島みずほ議員(社民)は「このプロジェクトをずっと応援している。緊急避妊薬は時間の制約があるので、手に入りやすくなることが重要。早期に問題解決を」と激励。酒井なつみ議員(立憲)は「衆参約700名の国会議員中、助産師資格を持つのは現職では自分だけ。産婦人科の現場を知る者として医療従事者の意識改革が必要だと痛感している。自分の役割としたい」と決意を述べた。
※緊急避妊薬試験販売情報の特設サイト https://www.pharmacy-ec-trial.jp/
(『週刊金曜日』2024年6月28日号)