冤罪めぐるプレサンス国賠訴訟で特捜検事ら驚愕の無責任発言
粟野仁雄・ジャーナリスト|2024年7月16日3:32PM
部下を責め立て、虚偽の供述を取り、共犯として上司を逮捕して、ニュース価値を高める――大阪地検特捜部の手法はあの「郵便不正事件」と同じだった。
大阪市の不動産会社「プレサンスコーポレーション」社長だった山岸忍さん(61歳)は2019年12月、大阪地検特捜部に学校法人の土地売却をめぐる21億円の横領容疑で逮捕されたものの、2年後の21年11月には無罪が確定した。この冤罪事件をめぐり山岸さんが国に損害賠償を求めた訴訟(※注1)の証人尋問が、6月11日、14日、18日に大阪地裁(小田真治裁判長)で開かれた。
11日は大阪地検特捜部の4人の検察官が尋問され、当時の特捜による取り調べの模様を記録した映像と音声が法廷で公開された。山岸元社長の元部下を取り調べた田渕大輔検事が「あなたはプレサンスを貶めた大罪人ですよ。会社が今回の風評被害を受けて大きな営業損害を受けることになったら賠償できますか。10億や20億では済まないですよね。それを背負う覚悟で話していますか?」などと脅す様子が映し出された。ただ開示された18時間の映像では田渕検事が「検察舐めんなよ」と怒鳴り、机を叩くなどの場面もあるが、この日の公開部分は紳士的な対応の場面のみ。大阪高裁は公開を50分に制限する決定を出していた。
原告代理人の秋田真志弁護士による反対尋問に、田渕検事は「(元部下が)不自然な話をしており、自分の言葉の重みを実感してほしかった」などと抗弁。机を叩いたことなどは「不穏当だった。まったく非がないとは言わない」との反省もみせたが「山岸さんは今も有罪と思っていますか」と問われると「答えられない」と逃げた。
この態度に山岸さんは「怒りで体が震えました」と閉廷後の記者会見で表明。田渕検事が取り調べの席で発した「命かけてる」「腹を切る」などの発言にも「簡単にいう言葉ではない」と呆れたほか、無罪判決をどう思うかとの問いに「残念だった」と答えたことにも「控訴しなかった検察の言葉ではない」と切り捨てた。
横領容疑で計248日間も勾留された山岸さんは、自分の逮捕が報じられたため会社の売り上げが激減。上場企業だった会社の株価は下落し、自ら辞任を表明のうえ自社株を売却して凌いだ。
名前が報道されない検事
この事件ではプレサンスの取引先の社長も逮捕されたが、同社長は取り調べ担当の末沢岳志検事に対し、いったんは山岸さんの関与を認めたものの後に撤回。そこで末沢検事が山岸さんの逮捕を「待ったほうがいい」と進言したにもかかわらず、主任の蜂須賀三紀雄検事は耳を貸さなかった。尋問でこの件を問われた蜂須賀検事は「思い出せないが、末沢検事が言うなら否定しない」と答えた。
他方で、山岸さんが記者会見で「さすがやなと思った」と評したのは、この日に尋問されたうちの1人で、事件当時に自分への取り調べを担当した山口智子検事だ。
最初の取り調べの際、検事室で「社長、いらっしゃーい」と親し気に迎えた山口検事は、その後も親身を装いつつ巧みに立件に有利な供述を引き出した末に「社長、こんなん出てしもたやんかぁ。どうする?」と逮捕状片手に大袈裟に嘆いてみせるなど、山岸さんはすっかり騙された(※注2)。この日の法廷で、検察官出身の中村和洋弁護士に尋問された山口検事は「山岸社長とは真摯に向き合っていた」と答えたが、「記憶力抜群」(山岸さん談)にもかかわらず、他の質問には「覚えていません」を繰り返すのみ。間髪を入れずにそう答える場面もあった。これについて山岸さんは「次を訊かれるとまずいと考え、最初からそう決めていたのでしょう」と語った。
今回の報道では関西地区の民放テレビや『読売新聞』が田渕検事を実名で報じているが、山口検事の名前は出していない。NHKや『毎日新聞』『朝日新聞』などは検事の名は誰一人報じていない。筆者がその点についても問うと、山岸さんは「当然、すべて名前は出すべきですよ」と答えていた。
※注1 :『週刊金曜日』2022年4月8日号、同10月21日号で既報
※注2 :山岸さんの著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋刊)で詳報。
(『週刊金曜日』2024年6月28日号)