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「虎に翼」が示す 憲法の魅力とは? 憲法学者 木村草太さん解説

聞き手・まとめ 佐藤 和雄・ジャーナリスト|2024年7月26日3:47PM

連続テレビ小説「虎に翼」。(ⒸNHK)

「虎に翼」が放映された翌日の4月2日から、その感想をX(旧ツイッター)で細かく伝えている憲法学者がいる。木村草太さんだ。ドラマではどう憲法が描かれているのかを中心に語ってもらった。

――「虎に翼」第1回の冒頭シーンは、主人公の寅子が多摩川の河原で、新聞に掲載された新憲法を食い入るように読み、第14条に夢中になっている姿でした。木村さんは翌日の4月2日、X(旧ツイッター)に「NHK朝ドラ『虎に翼』のオープニングは、憲法14条だった! 第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と書かれました。どのような思いや、受け止めからだったのでしょうか。

憲法14条が専門

 まずは、自分がずっと研究してきた「憲法14条」が注目されていて、うれしかったのがあります。私の専門は憲法ですが、中でも、特に憲法14条が専門なのです。2023年12月に『「差別」のしくみ』という本を朝日選書で出版し、憲法24条と合わせて、その意義をみなさんにもっと伝えたいと思っていました。どんぴしゃり、でした。

 敗戦を経て制定された日本国憲法には、「近代的憲法なら、どこの国でも書いてあること」と、「日本国憲法ならではの先進性を備えたこと」があります。

「公権力を、憲法に基づいて運営しよう」という立憲主義や、「人が生まれながらに持つ権利を保障しよう」という人権主義などは、19世紀末には、広がっていました。14条のうち、「法の下に平等」というのは、すでに、広がっていたことですが、個々の属性を示しつつ、「差別されない」と宣言する憲法は、あまり多くありません。

 単に、「素敵な女性の一代記」というだけでなく、差別問題に焦点を当てるドラマになるのかもしれない、という期待が出ました。

穂積の描かれ方

――なるほど、そうだったのですね。同じ4月2日にはさらに「本日、登場の大学の先生は、おそらく、穂積重遠がモデルですね。今後の展開が楽しみです」と書いています。この「大学の先生」は、小林薫さんが演じた穂高重親という前半の主要人物です。モデルとされた穂積重遠とはどんな人物だったのでしょう。そしてなぜ「今後の展開が楽しみです」とお書きになったのでしょう?

 穂積重遠は、「日本家族法の父」ともいわれる人物です。それと同時に、女性の法学教育にも尽力し、その様子がどう描かれるのか、楽しみでした。

 私が憲法の研究者を目指したきっかけの一つに、「非嫡出子の相続分差別」の問題がありました。それについて検討している時に、穂積重遠が書いた『親族法』(岩波書店、1933年)も読みました。そして、子どもの権利や、女性の権利に関する先進的な記述に触れ、驚いたのです。

 しばしば、日本は欧米に比べて、子どもや女性の権利についての理解が遅れていると思われがちです。もちろん、「子どもは社会貢献できる人になるよう育てよう」みたいな表現もあって、現在の視点なら「子ども本人の人格的発展」等としないと、全体主義と誤解されかねません。しかし、全体としては、女性も子どもも、一人の人格者として尊重しよう、というベースが明示されていました。

押し付け感じられず

 また、宗教規範に基づく「女性はこうあるべき」「子どもはこうあるべき」といった押し付けが感じられず、「家族をどう規律したら、全ての人が幸せに生きられるか」を現実的な視線で考察している姿勢に、感銘を受けました。

 戦後家族法改正をリードしたのは、穂積先生ではなく、その次の世代の我妻栄先生たちです。キャスティングの都合上、穂高先生は我妻先生たちの役割も担っているのだろうと思いますが、穂積先生の基本姿勢は我妻先生たちにも受け継がれましたから、ドラマで描かれた戦後家族法改正の様子も、違和感なく楽しみました。

 欲を言えば、当時の人々にとっては、憲法9条以上に24条が注目されていたこと、それに照らし合わせながら、戦後家族法改正が進んだことなどももっと掘り下げてほしかったですが、その辺りは、私の著書を読んでいただければいいことですから(笑)。

木村草太・憲法学者、東京都立大学教授。1980年横浜生まれ。2003年東京大学法学部卒業。同年、同大学法学政治学研究科助手を経て、06年より首都大学東京(現東京都立大学)准教授。16年より現職。(撮影/佐藤和雄)

――4月5日にXに書かれた「ラストシーン。橋の上にしばし佇んでから、それぞれの道を歩み始める様々な年代の女性。主人公だけでなくて、みなさん、何かしら思うところがありつつ、それぞれの選択を積み重ねているのでしょうね」。これはどんなお気持ちから?

 実在の人物をモデルにした一代記では、主人公のストーリーに合わせて、周囲の人々が都合よく描かれてしまう面があるのは仕方ないかもしれません。ただ、やはり、ちょっとモヤモヤしたりします。

 そんな中、歴史上は名前も残らないであろう人々が、悲しんだり、悩んだり、それでもなんとかかんとか進み続けたおかげで、今につながっている、ということが、随所に表現されていて、純粋に、素敵だと思いました。

 逆に、市民が行政機関に自分たちの声を届けたのに、それをないがしろにしている場面を見ると、怒りを覚えることがあります。

 沖縄の基地問題ですとか、最近では、離婚後の共同親権を巡って、別居親の執拗な嫌がらせにおびえる人々の声が無視されたのは、衝撃を受けました。あれだけの切実な声を無視してしまう背景には、差別問題があるのではないかと考えています。

(『週刊金曜日』2024年7月26日号から抜粋)

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