外国籍永住権取り消し拡大の法改定に国連委が廃止要請 「人種差別」指摘
殷勇基・弁護士|2024年7月26日2:28PM
外国籍者の永住権の取り消し理由を拡大することを狙った出入国管理及び難民認定法(入管法)などの改定法案が、6月14日に参議院で可決され、成立した。
これに対して、国連・人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination=CERD)は同月25日付で日本(国)に「書簡」を送付した。書簡は、改定法が永住者の人権を制約することを「憂慮」し、人種等に基づく差別の効果を持たないよう「確保する」ことを求め、同法の見直しや廃止を含めた永住者の「保護を確保するための措置」として日本が採ったものに関する情報を、8月2日までに回答するように要請した。
現行でも1年超の拘禁刑を受けた場合などに永住権が取り消されることがある。改定法はそれを拡大し、入管法違反(在留カードの常時携帯義務違反など)や、税金、社会保険料の滞納などでも日本政府が永住権を取り消すことが「できる」とするものだ。
税などの滞納は日本国籍者にも起こることだし(しかも滞納は社会福祉が必要とのサインともなる)、滞納についての制裁規定もあり、それを使えば足りる。が、改定法は永住者についてだけ、滞納を理由に永住権を取り消すことが「できる」とする。
改定法は、外国籍者は永住者であっても日本社会の一員ではない、日本には「仮の客」としていられるだけだ――との日本社会への悪い「メッセージ(ガバメントスピーチ)」となり、人種・民族差別をあおる効果を持つことも懸念される。CERDの書簡もここを懸念している。
政府は「できる」と規定するだけで、必ず取り消すわけでもないとか、永住権を取り消した場合、最悪、日本から追放(退去強制)することもあり得るが、国外追放をするのはよほどの事案に限られるだろう、ふつうなら1年くらいの短いビザ(在留資格)から再出発してもらうことが多いだろう、などと説明していた。
もちろん永住から1年のビザに変更されてしまうことでも永住者本人や家族の人生に大きな影響を与える。結局、すべては政府次第だというわけだ。
外国籍者は「煮て食おうと焼いて食おうと自由」(池上努・法務省入管局参事官=検事=による1965年刊『法的地位200の質問』に出てくる表現。当時、敗戦後20年経って、在日韓国朝鮮人に永住権を認めるかがまだ議論されていた)という発想が政府にまたもみられること、国会もこれを認めたことに核心がある。
永住者増加で「管理」強化
日本はそもそも国籍法が閉鎖的で、国籍取得のハードルが他の主要国よりずっと高い。永住権取得も例外はあるが原則10年間の居住を要求している。
しかも、最近の日本政府の運用では、永住権申請時に税金の滞納が少しあったりしただけでもダメだと厳しくチェックしている。それらを乗り越えてようやく永住権を得ても、すぐに失うような「地雷」の上に永住者を立たせて、よほどの場合でなければ地雷は爆発しないので心配しないでよい、というのだから、日本の外国籍者政策に一貫してみられる「権利」ではなく、「管理」の発想だ。
日本の外国籍者は2023年で約380万人、うち(一般)永住者は約90万人。入管法は近年も大きな改定を繰り返しているが、安倍政権時の18年改定法の「特定技能」制度で既に外国籍労働者受け入れへ「大転換」済みだ。当然、永住者、さらに日本国籍取得者の大幅な拡大が見込まれる。
他方、「ウィシュマさん事件」発覚などもあったのに、23年6月の入管法改定では3回以上の難民申請者も送還可能にし、監理措置制度などを導入して「管理」をいっそう強化した。
今回の入管法改定も、外国籍者に来てもらいたい「のに」管理をさらに強化するのか、と思えるが、政府・国会は外国籍者人口が増加する「から」という考えなのだろう。
(『週刊金曜日』2024年7月19日号)