沖縄、米兵性暴力事件初公判で被告人無罪主張 市民の怒り広まる
小川たまか・ライター|2024年8月12日4:20PM
沖縄県で昨年12月24日、面識のない16歳未満の少女を車で連れ去り自宅で性暴力を行なったとしてわいせつ目的誘拐罪と不同意性交等罪に問われた米軍嘉手納基地所属空軍兵長、ブレノン・ワシントン被告人(25歳)の初公判が、7月12日に那覇地裁(佐藤哲郎裁判長)で開かれた。罪状認否で被告人は、「I,m not guilty(私は無罪です)。誘拐もレイプもしていない」と起訴内容を否認した。
那覇地裁ではこの日、定員32席の一般傍聴席を求めて264人が抽選に並び、倍率は8・25倍に。保釈中の被告人を乗せた車が裁判所に入る様子を捉えようと、多くのマスコミが裁判所前に集まった。短髪を整え、白シャツに黒ズボンで出廷した被告人は服の上からでも筋肉質とわかった。顔つきは年齢より幼く見え、受け答えは明瞭。否認との答えに傍聴席は一瞬ざわついた。検察官の冒頭陳述などによれば、事件の経緯は次の通り。
被告人は前日に妻と喧嘩。当日は気晴らしのため自動車で県内の公園に向かった。16時過ぎに公園に到着。10分ほど経った頃、少女に声をかけた。少女はこの日、母親と喧嘩したことから家を出て、部屋着に上着を羽織るだけの軽装で公園のベンチに座っていた。
被告人は「あのー、大丈夫?」と日本語で少女に声をかけ、その後は翻訳アプリを使ってやり取りをした。少女は母親と喧嘩した事情を伝え、被告人は「自分は軍の特別捜査官」と嘘をついた。「何歳ですか?」と尋ねた被告人に少女は両手の指を使ったジェスチャーと英語・日本語で年齢を告げた。被告人は「寒いから車の中で話さない?」と言い、自動車に少女を乗せた後、自宅に連れ込んだ。
被告人の自宅で被害に遭った少女は帰宅後、母親から「どこへ行っていたの?」と聞かれ、泣きながら被害を申告。母親はその場で110番通報を行なった。
被告人弁護士は「18歳だと確認し、そう認識していた」「同意の下での行為であり(不同意性交などの)構成要件を満たさない」と主張。キスや体を触る行為はしたが、それ以上の検察官が主張する行為はしていないとした。検察側は公園での防犯カメラ映像や、被告人と一致する型のDNAを少女から採取し証拠として提出している。
「県警は何をしていた!」
初公判前日の11日は沖縄県庁前で性暴力に抗議するフラワーデモが毎月行なわれる日でもあった。この日はサイレントスタンディング後に開かれた緊急集会に約70人が参加。主催者の一人で沖縄大学非常勤講師の上野さやかさんは「緊急集会を開かなければならないのはすごく悔しい」。さらに「基地問題が重なる事件は大きく報じられるが『(米兵が加害者ではない)自分の性被害は大したことではない』と語る人もいる。基地があることで見えなくなる性暴力がある」と、性暴力問題に関する沖縄の複雑な事情を語った。
12日の初公判は上野さんのほか「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代さんなど、これまで沖縄で起きた性暴力事件に抗議の声を上げ続けてきた女性たちも傍聴した。高里さんは「(被告人が)保釈されている裁判はこれまで見たことがない」とし、法廷で見た被告人が「あまりにも堂々と出てきた」と印象を語った。
今回の事件では捜査にあたった沖縄県警が、外務省に連絡しながら県には連絡せず、その後の5月に発生した別の性犯罪事件でも同様の対応をしていたことがわかっている。事件についての報道発表も行なわなかった理由を、県警は後に「被害者のプライバシー保護」と説明したが、これを高里さんは「被害者を守るかのような理屈をつけて知らせないのは逆に被害者を利用した隠蔽。許せません」と切り捨てた。11日のフラワーデモ参加者からも「県警は何をしていたのか。なぜ知らせなかったのか。地元の子どもを守ってほしい」という声が上がった。
8月の公判では少女と母親への証人尋問が行なわれる予定。法廷ではプライバシー保護のため証言台と傍聴席、被告人との間にそれぞれ遮蔽措置をとるとしている。
(『週刊金曜日』2024年7月26日号)