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「国立女性教育会館の存続を!」 埼玉・嵐山町で100人会議
古川晶子・ライター|2024年8月16日12:48PM
埼玉県比企郡嵐山町にある国立女性教育会館(NWEC、以下、ヌエック)は男女共同参画をテーマとする国内唯一のナショナルセンター。緑と水辺が豊かな環境に恵まれ、宿泊棟を備えた研修施設として、1977年に開設された。
ジェンダーに関連する活動や研究の貴重な図書資料を約14万点所蔵し、「宿泊できる専門図書館」として、第21回図書館総合展・運営委員会特別賞を受賞。主催する「男女共同参画推進フォーラム」には、毎回、全国からジェンダー平等を進めるさまざまな団体が集い、課題や成果を共有する場となっている。
ところが2023年末に、管轄する文部科学省と内閣府が25年3月までにヌエックを嵐山町から移転させようとしていることが明らかになった。利用者や関係者は驚愕し、現在の施設の存続を求める有志が会を立ち上げ、24年1月から署名活動や国との懇談などを行なってきた。7月13日にヌエックで開催された100人会議「ジェンダー平等ってな~に?」も、ジェンダーの問題にかかわる人々の拠り所として、ヌエックの存在意義を見える化する取り組みだ。
小学生からシニアまで幅広い参加者が語り合い、「『男らしさ』にしばられる不自由さから抜け出しましょう」「女性と若者を政治の場に!」「ジェンダー平等の実現は年長者から」などの発表に拍手が湧いた。
「国立女性教育会館を存続する会」(以下、存続する会)の渋谷登美子さん(嵐山町議)、末吉美帆子さん(所沢市議)は「いろんな方の生の声を聞けて、勇気をもらった。ヌエック存続を求める運動に活かしたい」と力を込めた。
移転の話は、開設以来40年以上にわたってヌエックを抱える嵐山町にとっても、青天の霹靂だ。100人会議の冒頭、佐久間孝光・嵐山町長は「23年11月29日に、ヌエックを移転、あるいは譲渡するという文言をいきなり突きつけられた。このまま黙って、はいそうですか、と言うわけにはいかない」と訴えた。嵐山町議会から国へ意見書を上げ、埼玉県議会からは全会一致で国立女性教育会館を嵐山町に残すべき、という国への要望書を採択するなど、自治体としても動いている。
移転という名の廃止?
国側は移転の主な理由を「ヌエックの機能強化のため」としている。しかし、存続する会の伊藤正子さん(川越市議)は「国との懇談で、移転してどのような機能をどう強化するのか尋ねてみたが、明確な返答はない。実のところ縮小あるいは廃止なのでは」と不信感をあらわにする。
100人会議には国会議員や専門家も参加。参議院議員の福島みずほさんは「移転すると現在のような環境はなくなってしまう。これからヌエックを、いろんな企画で使い倒して元気にしましょう」と呼びかけた。女性政策研究家の三井マリ子さんは「目と目をあわせ、手を握り、肩を抱き合う、そんな空間は得難い。市民を巻き込んで“移転”をひっくり返すたたかいをスタートしませんか」と、今後の活動展開を提案した。
東洋大学参与の関賢二さんは「ナショナルセンターの移転は、省庁が判断するレベルの問題ではない。日本で男女共同参画をどう進めるかというのは国家として考える課題であり、国際社会での日本の評価にもかかわる」と、政策決定の側面から問題を指摘する。
国連の第1回世界女性会議がメキシコシティで開催されたのが1975年、77年のヌエック設立はこの世界の潮流を受けてのことだ。2024年10月、日本政府はジェンダー平等政策の実施状況について、国連女性差別撤廃委員会の審議を受けることになっている。このタイミングで、多くの反対の声があるなかでヌエック移転を進めることの意味を、国はどう認識しているのだろうか。
追記:7月30日、政府は嵐山町でヌエックを存続すると発表した。現在の運営主体である「独立行政法人国立女性教育会館」を改組し、女性活躍の支援強化の司令塔とするという趣旨だ。会館の移転は回避されたが、研修棟・宿泊棟は老朽化のため撤去するという。
存続する会の渋谷さんは、「女性活躍という経済的視点ではなく、差別を撤廃していく方向の拠点として位置づけてほしい」という。存続する会は、今後もヌエックに集いながら運動を継続していく。
(『週刊金曜日』2024年8月2日号)