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〈ブリンカーつけて走る人〉田中優子

田中 優子・『週刊金曜日』編集委員|2024年8月22日8:38PM

田中優子・『週刊金曜日』編集委員。

 安芸高田市長時代の同市市議とのやりとりを見ていて、石丸伸二氏に言いようのない気持ち悪さを感じてしまった。東京都知事選挙直後のテレビ番組で冷笑しながら質問し返す時のまなざしを見た時も、ひどく気分が悪くなった。これらは政策と関係のない身体的反応なので、批判ではない。しかしこの気持ち悪さの理由を知りたい。この場をお借りして言葉にしておく。

 彼についての自分のイメージを探ってみたところ、ブリンカーと呼ばれる視界の一部を遮る馬具の一種をつけた競走馬が思い浮かんだ。ひたすら前を見て競走するために、後ろも左右も見えないようにするのがブリンカーである。周囲の人を「敵か味方か」に分け、勝てる時だけ勝負に出る。高齢者には勝てる。なぜなら彼らは先に死ぬからだという。生命を勝ち負けで語るのは戦争中の軍人だけ、という認識は持たない。なにしろブリンカーがついているのだ。

 少子化対策に一夫多妻制を持ち出した。一夫多妻制は、幼児死亡率の高い時代に「家」を守るために存在した。近現代ではそれが家ではなく「国」のため、となる。女性を、国家のための「産む機械」と位置付けたのだ。「あと100年や200年かかると思う」という言葉を加えたが、男性たちが妻子を「贅沢品」と言うようになったこの日本で、複数の妻を持つ人はいるのか?

 ごく少数の大金持ちが実施しても少子化対策にはならない。現在81億人の世界人口がこれから100億人に膨れ上がることも視野に入れるべきだが、ブリンカーがついているので世界が見えない。新しい社会像も持てない。旧来の「国家」と「家族制度」内でしか、物事を発想していない。

 著書『覚悟の論理 戦略的に考えれば進む道はおのずと決まる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読み、すぐに啓発本だとわかった。「政治の見える化」とは「自分の見える化」のことで、「尊厳」とは「自分の尊厳」を意味し、「立場、役割を自覚せよ」とは自分がどう見えるかを意識する、という意味だった。そういう石丸氏を自分と似ていると思う若者が多いという。

 子どもがブリンカーをつけて走り続けているように見える。私の気持ち悪さは、「かわいそうで見ていられない」気持ちであった。同時に、これが、自分たちがおこなってきた教育の結果なのか、という暗澹たる気持ちであった。

(『週刊金曜日』2024年8月9日・16日合併号)

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