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鹿児島県警、強制性交容疑事件もみ消し疑い 元警察官の父親が相談後、警察署が女性の告訴受理拒否

長谷川綾・『北海道新聞』記者|2024年8月26日5:34PM


「鹿児島県警の闇」を記者に内部告発した警察官らが相次いで逮捕される発端となった2021年の強制性交容疑事件で、県医師会の男性職員(当時)が告訴される前、県警の元警部補である父親と一緒に、鹿児島中央署に相談に行き、事情聴取に父親も同席したことがわかった。県警が取材に対し、初めて認めた。同署はその後、女性が持参した告訴状の受け取りを拒否し、弁護士の抗議を受け、受理していた。県警が警察関係者の事件をもみ消そうとした疑いがある。

元警部補の息子が被疑者となった強制性交容疑事件で、もみ消し疑惑が浮上した鹿児島県警。市民への説明が求められる。(撮影/長谷川綾)

 事件は2021年8~9月、県が県医師会に業務を委託していた鹿児島市内の新型コロナ宿泊療養施設で起きた。医師会職員の男性が、看護師の女性に複数回、性的行為をした。

 県警によると、男性の父親は21年3月まで鹿児島中央署に勤め、同署で退職した元警部補。男性は21年12月、事件の相談をするため、父親と弁護士と一緒に鹿児島中央署を訪れ、事情聴取を受けた。父親と弁護士も事情聴取に同席した。

 男性は21年12月初旬、女性の雇用主に対し、「強姦した」と認め、謝罪文案もつくっていたが、その後「同意があった」と否認に転じた。県医師会関係者によると、男性は当時、勤め先の県医師会に「父親と一緒に警察署に相談に行き、刑事事件にならないと言われた」と報告していた。
 県医師会は「不適切な行為があった」として22年9月、男性を停職3カ月の懲戒処分とし、男性は依願退職した。

 鹿児島中央署は、男性の相談時には、9カ月前まで職場の同僚だった元警部補の父親と、弁護士の同席を認める一方、その後、レイプを告訴しようとした女性に対しては弁護士の同席を許さず、告訴状の受け取りを4時間にわたり拒否。捜査の公平さを疑われる対照的な対応をとった。

 女性が初めてメディアの取材に応じ、警察署とのやり取りを明かした(本誌2024年8月23日号)ところによると、女性は22年1月7日、強制性交の疑いで告訴するため、告訴状と陳述書を持って、弁護士と一緒に同署を訪れた。担当の女性警察官は、弁護士の同席を許さなかった。「告訴したい」と何度も訴える女性に対し、30分に1回は「上司に聞いてきます」と行って離席し、戻ってきては「証拠がない」「立件できない」「被害者は時間も労力もかかり大変」「本当に嫌な思いをしたのなら、なぜ時間がたってからきたのか」などと返答。4時間にわたり「堂々巡りになった」(女性)末、同署は告訴状を受け取らなかった。いったんとったコピーも署の外まで追いかけてきて「上司から受け取れないと言われた」として女性に突き返したという。

 女性の弁護士が1月10日、中央署長宛てに抗議文を出し、同月17日に告訴状は受理された。男性は告訴された1年半後の昨年6月、強制性交の疑いで書類送検され、同12月に嫌疑不十分で不起訴となった。女性は今年1月、検察審査会に審査を申し立てた。

 警察官の捜査手続きを定めた国家公安委員会規則の犯罪捜査規範63条によると、司法警察員である警察官は、告訴を受理しなければならない。刑事訴訟法は、警察の告訴受理義務を明文化していないが、241条で、告訴は書面か口頭で司法警察員に行ない、司法警察員は、口頭による告訴を受けたときは調書を作らなければならない、と定めている。このため、告訴の意思を明らかにした者に対し、告訴を受理しなかったことを刑訴法241条に違反するとした判例もある。

 ある県警OBは「元警察官が自分の息子が疑いをかけられた事件の相談に同行すれば、捜査を歪めたと疑われるに決まっている。非常識な行動だ」と批判した。
 刑事事件に詳しい笹森学弁護士(札幌)は「警察が内容を検討するため告訴状の写しをとって原本を返すことはあるが、写しを取っておきながら返すのは異例だ。警察OBの息子側へすでに事件にならないと言った手前、女性の告訴を受理する気がなかったのだろう。県警が事件を潰そうとしたと疑われても仕方がない」と話している。
 
 この強制性交容疑事件を巡っては、ニュースサイト「ハンター」(福岡)が22年春から「警察官の父親と一緒に警察署に相談に行った後、女性の告訴が門前払いされた」として、県警による「もみ消し疑惑」を繰り返し追及。国会、県議会でも父親が相談に同行して、捜査が歪められた疑惑について度々質問されたが、県警側は、父親が元警察官か否かも含め、事実関係を一切認めてこなかった。ところが、県警は今年7月19日の県議会総務警察委員会で、「受け渋りがあった」と対応に問題があったことを初めて認めた。

 事件の捜査に疑問を感じた県警本部公安課の藤井光樹巡査長(その後、懲戒免職)は、この事件の捜査記録を「ハンター」代表の中願寺純則記者に渡し、地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで逮捕、起訴された。鹿児島地裁は8月5日、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。
 県警は、元巡査長の逮捕と同じ日に、中願寺記者の自宅兼事務所を家宅捜索した。押収したパソコンから、県警の現職警察官による盗撮やストーカー事件の隠蔽疑惑を内部告発した匿名の文書を発見。これを書いた本田尚志・前生活安全部長を国家公務員法違反(秘密漏洩)の疑いで逮捕した。

(『週刊金曜日』オンライン限定記事・政治時評拡大版)

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