出生届の嫡出規定違憲訴訟で東京地裁が「合憲」判決 子の不利益認めたが扉開かず
室田康子・ジャーナリスト|2024年9月5日7:24PM
出生届に「嫡出子」か「嫡出でない子」かを書かせる戸籍法の規定は法の下の平等を定めた憲法14条などに違反していると、東京都杉並区の富澤由子さんが国を相手取って嫡出規定の撤廃と損害賠償を求めていた裁判の判決が8月1日、東京地裁であった。大須賀寛之裁判長は「法律婚主義の下で、父子関係の成立について嫡出子と嫡出でない子との間に戸籍取り扱いに違いが生じることには合理性がある」と請求を棄却した。
嫡出とは「法律上の婚姻関係にある女から生まれる」(『精選版 日本国語大辞典』)こと。婚姻届を出せない・出さない人は、わが子の出生届で「嫡出でない子」とするよう求められる。富澤さんは「生まれた子が嫡出かそうでないかの選別を強制するなど人権侵害そのもの」と、撤廃を訴えてきた。
弁護士をつけない本人訴訟で、約2年間に11件の準備書面と109件の証拠書類を一人で作った。「身を削るようにしてやってきたのに、判決は耳を疑うものでした。差別を差異と言い、『合理的』を乱発していて落胆しました」。
富澤さんは1983年に事実婚で男児を出産。杉並区役所に出した出生届には、パートナーの藤田成吉さんを届出人で「父」と記載し、嫡出欄は記入しなかったため、受理されなかった。息子はその後12年間、戸籍も住民票もない状態に。乳幼児健診の通知も就学通知も届かなかった。小学校に入学はできたが、息子は偏見に満ちた先入観の中で通学しなければならなかった。パスポートが作れないなどの不利益もあった。
大須賀裁判長は判決言い渡しでそのことに触れ、「原告の子が本来国民として享受できるはずであった福祉、教育等の行政上の支援を受けることが著しく困難な状態に置かれたことについては、誠に重大な事態であったと受け止めている」と述べた。それでも、戸籍の取り扱いで差をつけている制度が直ちに憲法違反であるとはいえないという姿勢を変えなかった。
富澤さんは「(同情しても)請求を棄却するのは、基本的人権の侵害を放置していること。差別があると認めたら謝罪し賠償するのが常識ではないか」と反発する。
「運用改善」では不十分
裁判後の記者会見には、これまで戸籍や住民票の差別記載で違憲裁判を闘ってきた人たちも参加。菅原和之さんは「2013年に最高裁で敗訴したが、判決は出生届の嫡出欄は事務処理上不可欠の要請とまではいえないとし、子の不利益についても触れていた。11年たっても婚外子差別の考え方が変わらないのは残念」と話す。国際機関への働きかけを続けている福喜多昇さんは「国連加盟国はみな法律婚主義だが、親の婚姻の有無で子どもの身分を分けている国は先進国ではほとんどない。法律婚主義と言えば婚外子差別が許されるわけではない」と指摘した。
今回の判決では、法務省が13年に、嫡出欄への記載を求めても届出人が応じない場合、強いることなく受理するようにという通知を出したことなどを「一定の運用改善が図られてきた」と評価した。しかし、この通知が全国自治体の戸籍担当者にきちんと伝わっているとは言えず、トラブルはしばしば起きている。通知のことを知らず、嫌な思いを抱きながら嫡出欄に記載している人も少なくない。
富澤さんの裁判で陳述書を出した神奈川県の女性も、つらい思いをした一人だ。夫婦別姓での婚姻届が不受理になり、事実婚で昨年出産。夫が嫡出欄を記載しない出生届を出したら、役所で「受け取れない」と言われ、女性も含めて何度もやり取りしなければならなかった。通知のことを伝えて最終的には受理されたが、「産後の体がきつい状態で、さらに追い打ちをかけられ涙が出た」と語る。女性は、産院でも事実婚での出産だと言うと、「やめた方がいい」「父親のいない子になる」など差別的な言葉を浴びせられたという。
富澤さんは「運用では不十分で、婚外子差別のもとになっている嫡出概念をなくすべきだ。法律改正されなければ抜本的な解決にはならない」と言い、控訴する方針だ。
(『週刊金曜日』2024年8月9日・16日合併号)