旧優生保護法訴訟、最高裁の違憲判決を受け最初の和解成立 一刻も早く救済制度の確立を
岩崎眞美子・ライター|2024年9月5日7:35PM
旧優生保護法の規定による不妊手術の強制は憲法違反であるとして、東京都の西スミ子さんが国に損害賠償を求めた訴訟について、7月31日、東京地裁(片山健裁判長)で和解が成立した。
本件をめぐっては2018年以降、被害者39人が全国12の地裁・支部に提訴しており、7月3日には先行する5件の訴訟について、最高裁で違憲判決が言い渡された。
判決が出た5件のうち高裁が国の損害賠償責任を認めた4件の訴訟(札幌、東京、大阪、兵庫)は国の上告を棄却。高裁が国賠責任を否定した仙台判決は破棄され、損害額などの審理のため原審に差し戻される。また、国の主張する除斥期間は認めず、原告らの国への損害賠償請求が認められた。
今回の西さんと国との和解は、一連の訴訟中、先の最高裁判決を受け最初に成立したものとなる。生後まもなく罹患したはしかによって脳性まひとなり、手足などに障害が残った西さんは、14歳の頃に施設で「生理を止められる手術がある」と子宮摘出の手術を受けさせられた。今回国から西さんに示された和解金は1650万円。和解成立当日にオンラインで行なわれた和解成立報告会で西さんは、花の髪飾りをつけて参加。「今日はとてもうれしいです。ここまできたのはみなさんのおかげです。だからこれからも一生懸命生きていきたい」と喜びを語った。
今回の和解成立に先立つ7月17日には、最高裁判決を受けて岸田文雄首相が首相官邸で裁判の原告や関係者ら約130人と面会し謝罪した。首相は「旧優生保護法は、憲法違反で、同法を執行してきた立場としてその執行のあり方も含め、政府の責任はきわめて重大。政府を代表して謝罪を申し上げます」と発言し、政府として明確に責任を認める形で謝罪を行なった。国家賠償に関しても、除斥期間の適用は主張しないと明言。和解による解決を目指すと約束し、その後会場にいた原告一人ひとりに謝罪を行なった。
兵庫訴訟原告で聴覚障害者の小林宝二さんは、不妊手術を受けさせられた妻の喜美子さんと共に裁判を闘ってきたが、喜美子さんは判決を待たずに2年前に他界。遅すぎる国の謝罪に無念さをにじませながら「国の責任で差別のない社会をつくってほしい」と訴えた。
原告39人中6人が他界
この日原告らがくり返し強く訴えたのは、国が確約した和解による補償を「一刻も早く」「早急に」進めてほしい、ということだった。すでに原告39人のうち、6人の原告が亡くなっており、前出の西スミ子さんも体調不良のため首相面談当日は現地出席がかなわなかった。今回の和解は西さんの体調も鑑み、弁護団が優先的に国と協議を重ねて成立に繋げたという。
8月2日には、小泉龍司法務大臣に対し、原告団、弁護団らが旧優生保護法被害者への謝罪と速やかな全面解決を求める要請書を提出。政府・国会による謝罪と決意表明、本件全被害者への一刻も早い賠償・補償の実施、そして再発防止のための徹底した検証と恒久対策の実施を訴えた。小泉大臣は「皆様の筆舌に尽くしがたい経験に痛切な思いを抱いた」と述べ「真摯に反省し心から謝罪を申し上げる」と頭を下げ、その後原告一人ひとりと向き合い、謝罪をした。
その後の集会で、弁護団の関哉直人弁護士は、他の原告らに対しても一日も早く同等条件で和解できるよう国との基本合意を目指すと発言。被害を補償するための補償法、差別や偏見に取り組むための基本法を作る必要性を指摘。補償法については「配偶者の慰謝料や、優生保護法下で人工妊娠中絶を受けた人などについても補償の対象として盛り込んでいくことが重要」と述べた。
18年に最初の原告として裁判を起こした飯塚淳子さん(仮名)は、「謝罪してもらってよかった。一日も早い解決を願っています」と安堵の表情を見せていた。
被害者救済はようやく大きく動き出している。国は明確に非を認めて謝罪した以上、一刻も早い和解締結に全力を尽くしてほしい。
(『週刊金曜日』2024年8月9日・16日合併号)