「殺すぞ」、バス会社「国際興業」社内でカミソリ入り脅迫文、運転士が精神障害に
竪場勝司・ライター|2024年9月13日7:35PM
「殺すぞ」と書かれた脅迫文や、カミソリの刃入りの脅迫文を勤務先の個人ロッカーに入れられるなど、職場でさまざまな嫌がらせやいじめを受けたことが原因で精神障害を発病したとして、元バス運転士の男性が8月7日、労災認定を求めて東京地裁に提訴した。これまでも労災補償保険法上の休業補償給付を請求していたが、労働基準監督署長から不支給処分を受けており、この不支給処分の取り消しを求める形で、国を相手取って裁判を起こした。
提訴したのはバス運転士として国際興業(本社・東京都中央区)に勤務していた槙野圭さん(51歳)。訴えによると槙野さんは2015年5月に国際興業に入社。さいたま市の西浦和営業所で勤務していたが、入社当初から指導運転士によって執拗なパワハラを受け、19年8月ごろからは上司や同僚らからの無視や暴行、いじめ・嫌がらせ行為が始まった。同年11月には、社員しか入れないロッカー室の個人ロッカーに「殺すぞ」などと書かれた脅迫文が入れられた。さらに20年1月には「運転出来なくしてやろうか」という内容の脅迫文にカミソリの刃が添えられていた。こうしたことから槙野さんには気分の落ち込み、意欲低下、不眠などの症状が出るようになり、心療内科において、うつ病や適応障害が発病したとの診断を受けた。現在でも精神科に通院中で、国際興業からは22年8月付で解雇通知を受けている。
二つの脅迫文について訴状では「内部の者による犯行であることは明らか」と指摘。槙野さんは脅迫文に関して上司らに相談したが適切な対応はなく、「被害届を出すと、会社にいられなくなる」と脅迫を受けた、という。
また、訴状によると槙野さんの指導運転士は入社当初から毎月のように槙野さんの胸ぐらをつかむという暴力行為を執拗に行なっていた。20年1月にこの指導運転士は「警察沙汰にすると会社にいられなくなるぞ」と槙野さんの胸ぐらをつかみながら「定年までいたいんだろ」と凄んできたという。
労基署の判断への疑問も
提訴当日に、槙野さんと一緒に記者会見した代理人の白神優理子弁護士によると、休業補償給付の不処分決定でさいたま労働基準監督署長は精神障害の発病については認めているが、その原因である職場内のストレスについては程度が全体として「中」にとどまるとの認定だった。ストレスの程度には「弱」「中」「強」の3段階があり、「強」でなければ労災認定されないというのが厚生労働省の基準。白神弁護士は「脅迫文のストレスが『中』にとどまると労基署が判断した理由は『真犯人が誰かがわかっていない』からという、おかしな理由だ」と批判する。
訴状ではストレスの程度について「脅迫という犯罪行為が存在し、原告の人格を否定する常軌を逸したいじめ・嫌がらせが存在すること、これについての会社の支援が欠如し『会社にいられなくなるぞ』と脅して被害届を出すことを阻止する暴挙に出たこと等の事情を考えると、原告が受けていた心理的負荷の強度は、明らかに『強』と判断される」と指摘する。
また、槙野さんが休業補償給付を求める手続きで労基署の面談を受けた際、労基署職員からは他の営業所への異動を示唆するような不適切発言があった。これについては今年3月に埼玉労働局の労災補償課長が槙野さんに口頭で謝罪した。白神弁護士らが謝罪に至る書類の開示を求めたところ、ほとんど黒塗りだったため、提訴と同日の8月7日、槙野さんは審査請求を行なった。
槙野さんは会見で「あこがれだったバスの運転や私生活もまともにできなくなってしまった。提訴により、自分の人生を一日も早く取り戻したい」と語った。
国際興業広報課は、槙野さんが訴えの中で、脅迫文に関して上司らに相談した際に「被害届を出すと、会社にいられなくなる」と脅されたとしている点や、指導運転士からのパワハラに関して、いずれも「会社として把握していない」とコメントしている。
(『週刊金曜日』2024年8月30日号)