米軍基地建設進む辺野古大浦湾で大量の「濁り水」発生 生物への影響に懸念強まる
形山昌由・ジャーナリスト|2024年9月13日7:42PM
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古周辺への移設計画で、軟弱地盤のあるキャンプ・シュワブ北側(大浦湾側)エリアの護岸整備工事が8月20日に始まった。それに先駆けて7月4日から行なわれていた杭打ち試験では海面に濁り水のような広がりが生じていたことがわかっており、本格工事で湾内に生息する生物への影響も懸念されている。
現場から濁り水状の広がりが出ているのは、土木技術者で沖縄ドローンプロジェクトの奥間政則氏(58歳)が7月8日に空撮してわかった。写真には大浦湾の工事用クレーン船に隣接する汚濁防止膜のエリアから発生したとみられる白い濁り水のようなものが、扇状に広がっているのが写っている。
辺野古新基地建設をめぐっては防衛省が2018年3月に公開した地質調査報告書から大浦湾の海底部に軟弱地盤が広範に広がっていることが判明。その後、同省は地盤改良工事を行なうため沖縄県に申請した「公有水面埋立変更承認願書」で「人為的に加えられる懸濁物質は2mg/L(※)以下であること」とする環境保全基準との整合性は図られているとした。
奥間氏は写真に写った濁り状のものの長さが400メートルほどで、海底への杭打ちの影響から海面に舞い上がった泥だと指摘。防衛省が基準とした濁りの2mg/Lは通常の海水と見た目が変わらない程度の透明度のため、海面に濁りが発生した時点で100mg/Lを超えているだろうと推測する。
懸念されるのは水中生物への影響だ。世界的にも生物多様性豊かな大浦湾には5000種類以上の生物と200種類以上の絶滅危惧種が生息。19年には海洋学者のシルビア・アール博士が進める海洋保全プロジェクト「ホープスポット」認定地に国内で初めて選ばれた。昨年5月には東京大学の馬渕一誠名誉教授のチームが、20年に奄美大島などで発見された新種のウミエラを大浦湾でも見つけた。
すでに湾内の生物に影響が出たとの報告もある。沖縄ドローンプロジェクトは18年にキャンプ・シュワブ南側(辺野古側)のN3護岸工事で濁り水が流出したのを撮影。その後、日本自然保護協会が現場付近の海底を確認した結果、ジュゴンのエサとなる藻場が死滅していることがわかった。死滅した海藻には工事の流出土砂と思われる泥が大量に堆積していた。
改良工事の効果に疑問も
キャンプ・シュワブ北側一帯には「マヨネーズ状」と言われる軟弱地盤が存在し、防衛省は66万平方メートルの範囲に7万1000本の砂杭を打ち込んで地盤を固める計画だ。8月下旬から護岸を作るために必要な杭を打ち込む作業が始まるが、奥間氏は「工事で発生する濁り水の拡散を防ぐための汚濁防止膜が海面からわずか7メートルしかないため、土砂の外部流出は抑えられない」と話す。
「杭打ち作業の際に土砂が舞い上がる海底まで汚濁防止膜が届いていないため、周囲にダダ漏れになります。かといって海底まで設置すれば潮の流れで布製の幕がめくれるか引きちぎれてしまい、深いところまで膜の設置はできません。防衛省は濁り水を拡散させないとしていますが、そんな工事は現実的ではないのです」(奥間氏)
仮に軟弱地盤を改良して工事が完成したとしても、新基地はいくつもの大きなリスクを抱える。
「一つは砂杭の液状化です。固めた砂でも水中で振動が起きれば崩れる可能性がある。専門家が防衛省のデータをもとに分析したところ、震度1から3程度で護岸が崩れる可能性があることがわかりました。さらに新基地予定地の直下とその近くには2本の断層があることがわかっていて、地質学者は活断層だと指摘しています」(同)
新基地予定エリアの水深は最大で90メートル。しかし防衛省はその海面下90メートルまでの地盤強度を調べずに77メートル以深は固い層と判断。工事では70メートルまでしか砂杭を打たないため、地盤改良の効果を疑問視する声もでている。工費に9300億円の税金を投じて辺野古に新基地を造る意義がますます揺らいでいる。
※mg/L=ミリグラムパーリットル:1リットルの中に含まれる対象物質のミリグラム数。
(『週刊金曜日』2024年8月30日号)