「小池都知事は関東大震災での朝鮮人虐殺を認めて追悼を」 東大教職員らが要請文提出
吉永磨美・ジャーナリスト|2024年9月13日7:52PM
関東大震災(1923年9月)の発生直後、デマが原因で朝鮮人や中国人、異民族と間違えられた日本人がいわれなく多数殺害されたことについて、8月に大学の教職員や市民団体が、小池百合子・東京都知事あてに、歴史的な事実として認定し、追悼のメッセージを出すことを求める要請を行なった。東京大学の外村大教授(地域文化研究専攻、韓国学研究センター長)ら3人が5日、教職員83人が賛同した要請文を、都政策企画局総務部知事秘書の廣田淳担当課長に都庁で直接提出した。
朝鮮人虐殺犠牲者をめぐっては都内墨田区の横網町公園で民間の実行委員会などが毎年9月1日に追悼式を催している。かつて都はこの式典に知事名による追悼文を送っていたが、2017年以降は送付を止め、昨年も出していない。これについては7月に行なわれた都知事選でも争点となっていた。
要請で教職員有志は、小池知事が都議会等での質問に対し朝鮮人虐殺があったか否か自体の認識を述べず、曖昧な回答しか示さないことについて「定まった評価を受けている学説への信頼を毀損しています」と批判。5日都庁で記者会見を開いた外村教授は「事実や確定した学説に基づく形で行政を執り行なうのは当たり前のこと」としたうえで「あの震災時の虐殺がデマにより引き起こされたのは間違いない」と述べたほか、コミュニティ形成の観点からも、都の未来像を考えるうえでは歴史認識も多文化共生を前提にしたものと
していく必要があると訴えた。
東大集会に出席した都知事
記者会見の冒頭、要請の提出の経緯について市野川容孝教授(国際社会科学専攻)が説明。東大では昨年、藤井輝夫総長を含めた教職員らが行なった三つの発言をもって、同震災における朝鮮人虐殺は疑う余地のない歴史的な事実であることが公式見解となっており、それが政治家には共有されていないのではないかという。
市野川教授によると、昨年7月23日、30日の2日間、東大の本郷キャンパスで開かれたシンポジウム「関東大震災と東京大学」では、日本近代史専門の鈴木淳教授が「朝鮮人虐殺に関する研究が重ねられたことによって、報道や行政機関などが、外国人をめぐる流言蜚語が起こらないよう、あるいはそれによる暴行事件などが起こらないよう、常に意識するようになったのは、歴史の教訓が生かされた最大の成果ではないか」と発言していた。このシンポジウムには小池知事も来賓として出席しているだけに、今回の要請を行なった教職員らはそうした小池知事が前記9月1日の追悼式への追悼文を送付しないことを問題視。昨年12月31日付で発出された「関東大震災100周年にあたっての東京大学教職員声明」(159人が賛同)もそれをきっかけとしたものであり、今回の要請も今年9月の追悼式開催を前に、同声明を土台に作成されたという。
医療の歴史社会学を専門とし、優生保護法をめぐる問題にも関わってきた市野川教授は「研究者の立場から歴史的事実を一つひとつ社会に伝えていくことが私たちの責任であるのは言うまでもないが、その歴史的事実に基づいて人権保障、人権回復のための発言を行なっていくことも研究者としての責務の一つだ」と述べた。
このほか、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」(代表・田中優子法政大学名誉教授)も小池知事あてで同様の要望書を8月21日に提出した。
同会は、関東大震災の際に在日朝鮮人が流言飛語によって虐殺された事実は、政府の中央防災会議の報告書(09年)でも確認され、定説として扱われていると指摘。そのうえで追悼文の送付は、都民に対してこのような差別や偏見、そこから生まれる犯罪を絶対に許さないと示すことになるとして、追悼文を送らないとの判断を見直し、送るよう要望した。
23日の定例会見で、小池知事は追悼文送付の質問に対し、都の慰霊堂での大法要で慰霊を行うことだけ回答。都は「式典への追悼文送付はしない」と説明している。
(『週刊金曜日』2024年8月30日号)