世界自然遺産「奄美大島」公共工事に環境保護団体が警鐘 ユネスコに調査を要望
西村仁美・ルポライター|2024年9月24日4:42PM
ユネスコ(UNESCO、国際連合教育科学文化機関)世界自然遺産でもある奄美大島(鹿児島県)の自然環境が現在直面している問題をめぐり、同島で環境保護活動を行なう団体が8月28日に東京都内で緊急記者会見を開いた。
主催者は同島の一般社団法人「奄美の森と川と海岸を守る会」(髙木ジョンマーク代表)。環境NGO「虔十の会」(坂田昌子代表、東京都八王子市)が共催した。「守る会」の髙木さんは、同島の世界自然遺産に隣接する緩衝地帯が深刻な脅威にさらされている旨の書簡をユネスコに送ったことを報告。とりわけ、同島の嘉徳川が危機的状況にあることを訴えた。
奄美大島は2021年7月に島内の一部が、同じく琉球弧を形成する島々である徳之島(鹿児島県)、沖縄島北部と西表島(どちらも沖縄県)一部と共に世界自然遺産に登録された。これらの登録地を含めた4地域の面積は日本の国土のわずか0・5%に過ぎないが、計約4万2700ヘクタールの陸域に維管束植物1819種、陸生哺乳類21種、鳥類394種、陸生爬虫類36種、両生類21種が生息、生育。登録地にはIUCN(国際自然保護連合)の絶滅危惧種レッドリストに載る種が95もある。
同島南部を流れる嘉徳川全域と河口付近の海岸・嘉徳浜、近隣の嘉徳集落(大島郡瀬戸内町)は、世界自然遺産登録区域(登録地のこと)に隣接し、その環境を保つ緩衝地帯にある。
嘉徳川は川本来の姿を今も留める貴重な河川で、源流は河口から約1・5キロ遡った渓谷(世界自然遺産登録区域)にあり、1年の約半分は嘉徳集落前の砂丘の近くを通って海に注ぐが、流れは蛇行し、河口も自由に変化する。嘉徳浜では国内唯一、世界最大のウミガメであるオサガメの産卵や、1属1種で近縁種の存在しないアマミノクロウサギ(国の特別天然記念物にも指定)の姿も確認されている。流域にも、今は同島だけに存在するリュウキュウアユや、ここだけで確認されているスジエビ(Cタイプ)が見られる。
政府の説明に疑義
そうした嘉徳浜で、14年の2度にわたる台風被害をきっかけに同集落から災害対策の要望が上がり、それを受けた鹿児島県が侵食対策事業として護岸工事を計画。見直しを求めた一部の住民らが事業にかかわる公金支出の差し止めを求める訴訟を提起した。現在も係争中だが、住民側が一審、二審と敗訴。今年5月に最高裁に上告した(本誌5月17日号で既報)。工事は7月に再開され、現在は工事用仮設道路を作るために砂丘を掘削中だ。
「守る会」理事で嘉徳集落住民の武久美さんによると、砂丘の背後にある同集落(14世帯17人)は、「ポケットビーチ」と称される形態の湾を持つ希有な地形にあり、ここに砂丘を掘削して設ける仮設道路の工事が進めば「砂浜が持つ防災能力が低下し、集落を危険にさらしてしまう。世界自然遺産にまで影響が及ぶだろう」と言う。
前出の髙木さんも工事について「日本政府はユネスコには嘉徳川や周辺の自然環境に影響のない護岸工事だと言っているが、事実と異なる。嘉徳を含め奄美大島全体の緩衝地帯での自然環境の保全状況の調査をユネスコに緊急に求める」と話し、根拠となる証拠を含む報告書を後日送付する予定だ。
環境省や鹿児島県、島内自治体に問い合わせると、環境省自然環境計画課は「河川本体と工事予定箇所は十分に離れており、河川への影響は懸念されない。自然環境にも配慮したうえで行なっており、住民の生命や財産を守るためにも必要だとユネスコに丁寧に説明し、理解されていると思う」。
鹿児島県河川課は「裁判で(工事の適正さは)認められており、地元の人たちから要望を頂いたもの。工事は進めていく」。奄美市は「会見内容を見ておらず、コメントは差し控える」。瀬戸内町は「住民の不安な思いもしっかり受け止め、一日も早く心静かに穏やかな生活・暮らしができるよう、早期に護岸整備を進めていただく必要があると考えています」と、それぞれ回答した。
(『週刊金曜日』2024年9月6日号)