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関東大震災時の朝鮮人犠牲者追悼式に「そよ風」嫌がらせ

石橋学・『神奈川新聞』記者|2024年10月17日5:33PM

 慰霊の場におぞましい“犯行予告”が響いた。9月1日、関東大震災時に虐殺された朝鮮人の追悼式典が東京都墨田区の都立横網町公園で行なわれていた。そこへ嫌がらせの集会を開いたレイシストが近寄ってきて、目張りされたフェンス越しに声を張り上げた。

追悼碑を「破壊する」と大声を上げる「そよ風」の村田春樹氏(中央右)。(撮影/石橋学)

「6000人虐殺は噓だ。噓の慰霊碑をわれわれは必ず破壊する」

 叫んだのは、朝鮮人虐殺は正当防衛だったと歴史の改竄を目論むヘイト団体「日本女性の会 そよ風」の村田春樹氏。政府がいまだに実態調査を行なっていないことにつけ込み、碑文に刻まれた犠牲者数「六千余名」を「噓」と決めつけ、「破壊宣言」をしてみせた。被害者の数に焦点を当てて言いがかりをつけるのは、加害の事実をなかったことにしたい歴史否定者の常套手段。被害者を噓つき呼ばわりし、加害と被害を逆転させるヘイトスピーチでもある。

 追悼碑は震災50年を迎えた1973年、日朝協会の呼びかけでつくられた実行委員会が建立し、都に寄贈したものだ。翌74年からは、やはり実行委が碑の前で追悼式典を毎年開催し、歴代知事は欠かさず追悼文を寄せてきた。

 異変が起きたのは2017年。小池百合子知事が追悼文の送付をやめ、以後も実行委の求めに拒否を続ける。同時に都の許可の下、追悼式典会場の目と鼻の先で「そよ風」が「真実の慰霊祭」をかたったヘイト集会を開くようになった。レイシストやネオナチ活動家が顔をそろえ、「朝鮮人は放火していた」といったデマとヘイトスピーチを垂れ流している。

 追悼文を送らず、追悼碑の撤去を求めるヘイト団体の集会を許可すること自体が小池氏の歴史認識を物語る。何より「虐殺はあった」とは決して言わないという姿勢を貫き「虐殺ではなく正当防衛だった」「虐殺はなかった」という歴史否定を勢いづかせた。

 そもそも都議会の一般質問で碑文の犠牲者数を問題視し、追悼文の再考を迫ったのは極右でならした自民党の古賀俊昭都議(故人)で、古賀氏に働きかけたのが「そよ風」。小池氏は野党時代に「そよ風」の講演会に講師として招かれてもいる。「官」と「草の根」は連動してヘイトの暴風を煽りたててきたのだ。軍隊や警察という「お上」が「朝鮮人暴動」のデマを流したからこそ、民衆はこぞって虐殺に走ったという101年前の教訓をまったく顧みないままに――。

「官製ヘイト」が追い風

 そうして飛び出した「破壊宣言」だった。今年レイシストが掲げた垂れ幕の一つには「群馬の次は東京だ!」とあった。2月に、やはり「そよ風」の言いがかりをきっかけに群馬県立公園の朝鮮人労働者追悼碑を粉々に破壊し、撤去した山本一太知事の「官製ヘイト」もまた成功体験になっていた。

 追悼式典であいさつした宮川泰彦実行委員長は「碑は幅広い市民や都議の全会派、都知事の賛同で建立された。都は碑文の内容にも主体的に関わっている。そうした経緯から追悼辞を送るのは当たり前だ」と強調した。追悼式典と偽慰霊祭がフェンスで仕切られ、都職員と警察官が目を光らせるという鎮魂とはほど遠い景色が常態化して久しい。そうした中、器物損壊という犯罪の予告までなされた。それも虐殺を正当化したいという差別を動機にしたヘイトクライムの予告である。都はどこまで加担すれば気が済むのか。

 朝鮮人虐殺の史実を追った『九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』の著書があるノンフィクションライター、加藤直樹さんは「都所有の碑を破壊するという団体に公園を使わせることなどあり得ない。19年と23年にヘイトスピーチがあったことも認定されており、人権尊重条例や都立公園条例に基づき使用を不許可にする条件はそろっている。許可する方がおかしい」と言い、一方で変化も強調する。「碑の撤去という『そよ風』の思惑通りになっていないのも確か。虐殺の史実を知り、それを許さない世論が広がっている。声を上げ続け、集会をさせないところまで追い込みたい」。

(『週刊金曜日』2024年9月13日号)

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