NPO「抱撲」が困窮支援事業でクラウドファンディング 「希望のまち」開設目指す
竪場勝司・ライター|2024年10月17日6:11PM
北九州市でホームレスや生活困窮者の支援などに取り組んでいる認定NPO法人「抱撲」が9月3日に東京都内で記者会見を開催。同市内にある暴力団事務所跡地を購入して進めている「希望のまちプロジェクト」に関して同日から建設資金への協力を求めるクラウドファンディングを開始することを公表した。目標金額は1億円で、期間は12月2日までの3カ月間。物価高騰などの影響で建設計画が危機に陥っている窮状を訴えた。
抱撲は1988年に活動を開始し、現在では子どもや刑務所出所者の支援などを含めた29の事業を手がけている。2019年秋には、かつて日本で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」の本部事務所があった跡地を購入。「怖いまち」と呼ばれた北九州を「希望のまち」に変えるための同プロジェクトを開始した(本誌20年2月21日号で既報)。人口減少や単身化、孤立・孤独など、現在の日本が抱えるさまざまな課題に対して「あるべき共生社会モデル」を提示すべく多彩な機能を持った複合型の社会福祉施設を建設。そこを拠点に「誰も取り残されないまち」をつくるというものだ。複合施設には仕切りのない、まちづくりのための大ホールのほか、個室仕様で定員50人の救護施設、「子ども・家族まるごと支援センター」、レストランなどを設ける予定だ。
これまで全国の多くの市民から支援を受け、土地代金も完済するなど着々と準備を進めてきたが、コロナ禍や急激な円安、物価高騰などの影響で建設にかかる費用が膨らみ、プロジェクトは目下危機に瀕している。当初計画では施設は4階建てで建設費用は10億円を見込んでいたのを3階建て(建設費用は13億円)に設計変更したが、今年5月に実施した入札は不成立に。これを受けて施設のさらなる設計変更を行なったが予算総額は15億円に膨らんだ。2億円の資金調達が必要となり、そのうち半分をクラウドファンディングで市民から調達する方針を採った。
性善説による展開に期待
会見では抱撲理事長の奥田知志さんがプロジェクトの趣旨や進捗状況について説明。「希望のまち」の目的として①その自殺が深刻な問題になっている子どもたちが「助けて」と言えるまちに、②急激な単身化が進む中で家族機能を社会化する、③まち全体で子どもを育て、子どもの頃の思い出をまち全体で引き継ぐ「相続の社会化」、という三つを挙げた。そのうえで「抱撲が行なう炊き出しに並ぶ人の数が増えている。自己や身内の責任では乗り越えられない現実が目の前にある。課題が山積する日本の社会において、あるべき共生社会のモデルとして『希望のまち』を始めたい」と訴えた。
抱撲によって支援を受けてきた梅田孝さんは、会社を退職した後に住んでいた寮からも追われ1年3カ月間の野宿生活をした自身の経験を公表。「一番つらかったのはすべての関係が切れたこと」だと振り返った。抱撲について「一番助かったのは支援住宅事業。住所がないと就職ができない。抱撲と関わって、そういうことがすべてクリアできた。今は仕事をしながら炊き出しと抱撲のボランティアをしている」と述べた。
プロジェクトの顧問を務める元厚生労働事務次官の村木厚子さんは「地域のつながりが薄くなっている中で、普通の地域に衣・食・住プラスつながりを備えたまちをつくる。これが一つ実現し、形となってその必要性が示されれば、こうした動きが全国へと広がっていくと思う」と期待を表明した。
支援者の一人である思想家の内田樹さんは、このプロジェクトを「周りの人たちの善意を信じるという、性善説に基づいて走らせている。性悪説や自己責任で制度を設計しようとしている今の世の中で、性善説のプロジェクトが成功しているのはすばらしいことだ。全力で応援したい」と力を込めた。
同プロジェクトでは今後、11月から12月に入札公募を実施。25年1月~3月には施設の建設工事を開始し、26年度中には竣工のうえまち開きを行なうことを予定している。
(『週刊金曜日』2024年9月20日号)