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「脱原発社会をめざす文学者の会」第3回文学大賞は村田喜代子氏と青木美希氏に

佐藤和雄・ジャーナリスト|2024年10月17日6:26PM

 もし、あなたが原爆と原発の問題に関心があり「何か優れた作品を読みたい」と思っていたら「脱原発社会をめざす文学者の会」(略称は脱原発文学者の会。共同代表は森詠、川村湊、村上政彦の3氏)が8月9日に発表した第3回文学大賞の2作品を強くお薦めしたい。今年はフィクション部門では村田喜代子氏の『新古事記』(講談社、2023年)、ノンフィクション部門ではジャーナリストの青木美希氏の『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書、23年)が選ばれた。

フィクション部門の『新古事記』(左)とノンフィクション部門の『なぜ日本は原発を止められないのか?』。

 この会は、東日本大震災が起きた1年半後に「福島原発災害を忘れてはならない」との思いから、「辻井喬さんを囲む会」や「加賀乙彦さんを囲む会」の流れをくむ文学者らが立ち上げた。

 文学者らしさを感じるのは公式サイトで次のように深い問題意識を明らかにしている点である。

「私たちがめざす『脱原発社会』とは、太陽光や風力、水力など再生可能な自然エネルギーを基にした社会であることはいうまでもありません。しかし、それだけが『脱原発社会』ではありません。(中略)『原発社会』は、ロベルト・ユンクが『原子力帝国』でいっている通り、国家が国民を監視するような『超管理社会』にならざるを得ません。私たちは人のプライバシーを侵害する監視社会や超管理社会に反対します」

受賞者たちの思い

『新古事記』は、日系三世のアメリカ人女性アデラが語る物語である。作者の村田氏がアメリカの原爆開発に参加した研究者の妻の手記を入手し「秘密裡に進む夫たちの原子爆弾開発と、それと知らず家事と子育てに明け暮れる学者の妻たちの日々」を知ったことが大きなきっかけとなった。

 村田氏は文学賞の公式サイトでこの小説の受賞について「妙な居心地のわるさ」を感じるが、この賞に授賞式や賞金などがないことを知り「非常に清々しい感じがして、これを有難く戴くことにした」という。そのうえで次のように自身の作品を説明する。

「だが賞金はなくても居心地のわるさはまだある。方向がよくない。こっちではなくて、あっち側から描いたのだ。被爆国の日本側と反対の、アメリカのロスアラモス原爆開発の研究所を舞台にした。核物理学者の恋人に付いて来た若い娘が主人公で、目標は低く設定した。娘は当地で結婚して妊娠する。原爆開発の裏側で大勢の妻たちは何も知らず、育児とペットの世話に明け暮れる。彼女たちの手記は古書店で入手していた」

 そしてこう結んでいる。

「家族愛と動物愛と科学者の友愛を知ると、この環境下で史上最悪の兵器を造ってしまった人間の心の不思議を思う」

『なぜ日本は原発を止められないのか?』の筆者である青木氏の真摯な取材への姿勢は、脱原発問題に取り組む私(佐藤)も時折、会議で一緒になるために強い印象を持っている。筆者が原発事故からの復興の現状、原発が始まった経緯、原子力ムラの人々の現状など、これまで取材してきた成果を分かりやすく、かつ鮮明に記したのがこの作品である。

 この作品の「おわりに」では、筆者の出版に至るまでの厳しい経過が述べられている。それは20年に朝日新聞社で記者職を外され、新聞媒体に書くことができなくなってからも独自に出版しようとした際に経験した会社からの言論規制であり、同時に彼女のジャーナリストとしての覚悟を示すものでもある。一節を引用したい。

「私は、記者としてではなくとも、『伝えてほしい』という声や、多くの協力してくれた皆様にこたえるために出版すべきだと思った。それが、亡くなった人たちの魂にむくいることだとも強く思った」

(『週刊金曜日』2024年9月20日号)

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