東京・目黒川で謎の気泡発生 リニア建設工事との関連は? 国は実質的な調査を拒否
樫田秀樹・ジャーナリスト|2024年10月17日6:41PM
東京・品川区内を流れる目黒川の川面に湧いた気泡と、区内の地下で進むリニア中央新幹線の工事との関係について、地元住民らが国土交通省鉄道局から説明を聞く会合が、8月30日に永田町の参議院議員会館で開かれた。
ことの発端は8月初旬、目黒川にかかる三嶽橋から見て河口方面に謎の気泡が湧いているのを複数の住民が確認し、品川区などに通報したことだ。三嶽橋はJR東海がリニア工事のために建設した「北品川非常口」(立坑)から約100メートルの距離にある。同非常口を発進した直径14メートルのシールドマシンは4月以降に、そのほぼ真下を掘進していた。
筆者は8月19日に、現場で気泡の発生を確認した。そこで疑いを抱いたのは、この気泡はシールドマシンに使われている「気泡剤」(土砂の掘削を容易にするためのシェービングクリーム状の薬剤)から生じた酸欠空気によるものではないかということだった。
都内では2018年から20年にかけて、NEXCO東日本(東日本高速道路)が「東京外かく環状道路」(外環)を建設するために直径16メートルのシールドマシンで世田谷区内を流れる野川の下を掘進する中で、やはり気泡が発生。それを採取した市民が酸素濃度を計測したところ6%台という、人が吸えば数分で死に至る酸欠空気であると確認した(※)。ところがNEXCO東日本はそこで工事を中断することなく掘削を続け、20年10月18日に調布市内での陥没事故を招くことになった。
今回の目黒川の気泡について、シールドマシンを担当する熊谷組JV(ジョイント・ベンチャー=共同企業体)に「シールドマシンからの気泡なのか」と尋ねた筆者に対して、一次情報を持っているはずの熊谷組は「答えられない。JR東海に尋ねてください」と、回答を拒否。すぐに筆者が自身のSNSに気泡の画像と映像を掲載すると、そこで気泡を問題視した市民が動き、山添拓・参議院議員(共産党)を紹介議員とした冒頭の国交省レクが実現した。
レクで同省鉄道局は「熊谷組は8月初旬に気泡を確認している」と説明したが「気泡の原因究明をしているのか」との山添議員の質問には「河川管理者(品川区)と調整のうえ、水質などの調査の仕方を調整している」と答えるのみ。会場からの「酸素濃度こそ測るべきだ」との声にも「かりにシールドマシンからの気泡だとしても環境には低負荷で、そもそも法令違反の事案でない。われわれは法令指示がないと動けない」と実質的な調査拒否を明言した。
今春に魚の大量死事件も
このJR東海による掘削工事は「調査掘進」との名目で、非常口から300メートルまでは掘削による地表面に変異が生じた場合は調査し将来の本掘進にいかすとの触れ込みのはずだった。出席した小池晃・参議院議員(共産党)が「その変異が起きている今、なぜ調査しないのか」と指摘したのに対して、鉄道局が「本件はJRが責任をもっているので伝える」とだけ回答し、会合は終了した。
この会合は開催までの周知期間がわずか2~3日程度だったが、外環やリニア問題と対峙する市民が約30人集まり、調査の必要性を訴えた。シールドマシンは今後、いくつもの水源の下を通るからだ。そこには、子どもたちの遊び場の川辺もあれば、池もある。また、水源ではなくても酸欠空気が井戸や地下室などに侵入すれば人命にかかわる問題になる。
筆者も「8月初旬に気泡を確認したのなら、その時点でマシンを止めなかったのか」と質問したが、鉄道局は「止めなかった」ようだ。
また、4月のことだが目黒川では三嶽橋の上流と下流で魚の大量死事件が起きている。これがシールドマシンからの酸欠空気の影響か否かを今は確かめようがない。だが会合から2週間近く経つ今も鉄道局がJR東海に調査の指示をしたとの情報がないことからも、目黒川で起きたことの真相はこのままないがしろにされるのではないかと、リニア問題に関わる市民らは危惧している。
※外環道工事での気泡問題については『週刊金曜日』2020年3月27日号、同6月5日号などを参照。