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非正規公務員の実態調査 「困難女性を支援する側が困難女性」の矛盾深刻化
古川晶子・ライター|2024年10月17日5:53PM
公務員というと安定雇用のイメージがあるが、実際にはさまざまな部署で非正規職員が働いている。そしてその多くが女性だ。行政やその関連施設で働く非正規職員(とその退職者)の当事者団体、公務非正規女性全国ネットワーク(以下、はむねっと)は、2021年の発足直後に「公務非正規労働従事者緊急アンケート」を実施して大きな反響を呼んだ。
はむねっとはその後も毎年、当事者の声を集める調査を実施しており、24年度のアンケート調査結果を9月11日に公表した。今回は全国47都道府県に在住する対象者からの有効回答は676件で、これまでと同じく、回答者の9割が女性。年代は10代から66歳以上までと幅広い。「会計年度任用職員」として、地域や社会を支える役割を担いながら、不安定な立場と低賃金に悩む声が多く寄せられた。
回答者の年代で最も多いのは40~50代で全体の62%を占める。職種は相談支援など対人援助職が多いが、収入は250万円未満が65%。日本では女性の年金が低く、現在、単身の高齢女性の困難が社会課題となっているが、そのような困難な女性の相談支援にあたっている職員が「明日は我が身」という状況だ。「困難を抱える女性を支援する仕事をしている自分自身もまた非正規公務員という困難を抱えた女性」と記入した50代の女性関連施設職員もいる。はむねっと共同代表の瀬山紀子さんも「調査開始からこの矛盾は続いており、さらに深刻化している」と感じている。
地域や社会の中にあるさまざまな課題に対応する仕事には、それぞれに専門性と経験が必要だが、専門性が軽視される現場の状況を訴える声も寄せられた。
「上司に専門的な知識がないので、専門職である自分たちの意見は通らない(30代 公民館等職員)」という記述もある。専門性を持つ人が意思決定に参画できず、その知見が業務に取り入れられないことは、公務サービスの質の低下につながる。また「1年後の生活が見通せない職員が、子どもたちの未来につながるような安心感を提供するのは難しい(40代 学校の相談・支援員)」という声もある。はむねっとでは、知識と経験を十分に生かせない会計年度任用の制度は、働き手だけでなく、公務サービスの受け手である市民を軽視しているととらえている。
「会計年度さん」が呼称
今回の調査では、職場での呼称についての設問もあった。名前や職名で呼ばず、「会計年度さん」や「会計さん」「(職務級の)2級」などの呼び方をされたことが「ある」という回答は30%にのぼる。「職種で呼ぶべき場面で『会計年度さん』という呼ばれ方をして不快に感じた(50代 家庭児童相談員)」という記述もある。
はむねっとでは、この呼称問題に、導入から5年度目となる会計年度任用制度が定着しつつあることの表れととらえ、非常に危機感を持っているという。同じ職場で数年かそれ以上、責任を持って働き続けている人であっても、名前や職名ではなく雇用形態で呼ばれていることは、いつ雇い止めでいなくなってもおかしくない人なのだという意識の表れだろう。
実際、退職した人に対する設問で辞めた理由を聞いているが、回答の40%が「雇い止め」だった。1年ごとの任用で過失がなくても、また低評価でなくても辞めさせることができる制度が、公務の現場で実施されているのだ。
妊娠中に辞めさせられた30代の事務職員は、労働局に相談したがマタニティハラスメントとして取り扱われなかったため「このような扱いを受けるのであれば、子どもを産む世代や育児をしている世代は、安心して働けません」と答えている。少子化対策を担っている行政が、子育て世代の職員にこのような対応をするというのは、大きな矛盾ではないだろうか。
はむねっとの調査結果は、有期雇用の濫用が全国の自治体で起きていることを明らかにしている。解雇規制の緩和について議論が起きているいま、「有期雇用は濫用してはならないということを、公務の現場から実現させていくことが重要」と瀬山さんは強調する。そして「会計年度任用職員制度は働き手にとって権利がない状態である」として、公務職場における安定雇用の実現を求めた。
(『週刊金曜日』2024年9月27日号)
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