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性暴力救援センター8団体が内閣府に要望書を提出 公費支援の拡充求める

吉永磨美・ジャーナリスト|2024年11月5日2:46PM

 性暴力被害者から相談を受けて医療や法律相談につなげる「ワンストップ支援センター」の運営が厳しくなる事例が相次いでいる。行政による公的支援が十分ではないことが理由で、特に病院拠点型の大規模センターでは存続の危機に瀕している施設もある。

ワンストップ支援センターの代表者たちが9月6日に開催したオンライン記者会見。(撮影/吉永磨美)

 2010年に大阪府松原市の阪南中央病院に開設された「性暴力救援センター・大阪SACHICO」(以下SACHICO)でも現在、新たな拠点設置や補助拡充を求めている。

 8月27日にはSACHICOのほか「千葉性暴力被害支援センターちさと」「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」など全国八つのセンターが、内閣府の加藤鮎子特命担当大臣(男女共同参画等)に対し、運営費における国の負担分の引き上げなどを求める要望書を提出。9月6日には8センター合同のオンライン会見を開いて実情を訴えた。

 会見では病院拠点型センターの問題以外にも、各地のセンターで支援内容に格差があり、公費負担の範囲や基準にはばらつきがあること、専門性のある支援員の確保や安定的な配置が難しい現状などが報告された。

 他方でセンターの利用者は全国的に増加しており、内閣府資料によれば21年度が5万8771件、22年度が6万3091件だったのが、23年度は6万9100件(対前年比9・5%増)と、増加傾向にある。

 性暴力被害の支援ニーズが高まっている半面、国や自治体からの補助では人件費など運営費が不足する事態に陥っている。病院を拠点とするセンターでは医師・看護師の支援行為に補助金が出ないため、病院側への人件費負担が生じるという運営体制にある。

 今回の要望書では、これまで国が自治体と半分ずつ負担していた運営費への補助率を10割に引き上げることや、医療・心理・法律の各専門分野支援における地域間のばらつきに関する調査、居住地などによる制限もなくして費用を国が負担すること、現在は国からの補助がない医療従事者の支援行為についての補助も求めている。

人件費負担が深刻な課題

 SACHICOはワンストップ型の支援の先駆けで、理事の一人である加藤治子医師を中心に病院拠点型のセンターとしてこれまで活動。性暴力被害者の相談に対し24時間体制のホットライン、支援員常駐、心のケア、産婦人科、精神科による支援を実施し、診療については被害者を阪南中央病院につなげる形で行なってきた。しかし、被害治療の診療報酬の単価は通常の外来に比べて4分の1程度と低い。そのうえ、相談を受けた医師が刑事手続きや裁判に備えた証拠として被害状況を丁寧に聴き取って記録するという、診療以外の活動もある。

 その結果、医師らの人件費を拠点病院が被る構造となり、持続的な運営が厳しい状態となっている。診療代も被害者の負担はゼロで、大阪府や警察の公費負担とセンターが集めた寄付から賄う格好だ。SACHICOに限らず病院拠点型のセンターは安定した医師の人件費確保が必須だ。

「少子化、女性活躍というが、性被害の問題を抜きにしては語れない。大阪府の公的責任で体制を整備してほしい」と、SACHICOの久保田康愛理事長は訴える。前記の相談からつなげた形による阪南中央病院での受診件数は22年度が406件だったのが、23年度は121件と半分以下に減少。SACHICO全体での受診件数は同じく423件から207件に半減。一方で支援を頼んだ他の協力病院での受診が17件から86件に増加した。なお、阪南中央病院を拠点にした活動は今年度までとなっているという。

 SACHICOは6月7日付で大阪府に対し、性暴力対策の拡充策として、公立病院を拠点とするワンストップ支援センターの設置などを要望した。自治体によるセンターの拠点化などを求めているが、大阪府は明確に回答していない。9月の府議会の議論に注目が集まっている。

(『週刊金曜日』2024年9月27日号)

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