「図書館の自由宣言」から70年 検閲、権力介入との闘いは今も
長岡義幸・フリーランス記者|2024年11月12日6:59PM
日本図書館協会(日図協)の図書館の自由委員会は9月7日、東京・中央区の日図協研修室で「図書館の自由に関する宣言70周年記念講演会」を開いた。木村草太さん(東京都立大学教授)が「憲法学者からみた『図書館の自由』」と題して講演し、基本的人権と図書館の自由との関係などを整理して自由宣言の重要性を語った。
自由宣言は1954年に日図協総会で採択され、79年の改訂を経て今年制定70周年を迎えた。現行の宣言では〈図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする〉とした上で、「第1 図書館は資料収集の自由を有する」「第2 図書館は資料提供の自由を有する」「第3 図書館は利用者の秘密を守る」「第4 図書館はすべての検閲に反対する」「図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る」の5項目を掲げる。
図書館の自由委員会はオウム真理教によるサリン事件を理由にした国会図書館の利用データ53万人分の押収事件や、特定の傾向の図書を司書個人が独断で廃棄した船橋市西図書館事件、松江市の『はだしのゲン』閲覧制限問題、各地の青少年条例による図書規制の強化ほか、図書館の自由に抵触する事件や動きがあった際には、考え方や対応策をまとめたり、各図書館に助言したりするなどの取り組みを重ねてきた。
講演に先だってあいさつした日図協理事長の植松貞夫さん(筑波大学名誉教授)は、自由宣言の意義を「第3項は第二次世界大戦までの国家総動員体制の中で図書館も思想善導や検閲に協力したことへの悔悟と贖罪の意識、第4項は国家権力というものがいかに大きな力でごり押しするかを体験された先人たちが後輩に伝えたい気持ち」によるものだと紹介した。
さらに文部科学省が2022年8月、北朝鮮人権侵害問題啓発週間を前に、都道府県教育委員会などに「北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」と題する事務連絡を発し、拉致問題に関する図書の充実や拉致問題をテーマにする展示を図書館が行なうよう求めた事件(※注)に言及。「文科省が図書館にこのような要求を公式文書で行なうのは戦後初めて。直ちに反対の意思表示を行なうとともに文科省の地域学習推進課長に直接抗議した」と報告した。内閣官房拉致問題対策本部の依頼に唯々諾々と従って図書館に介入した文科省の対応は資料収集・提供の自由を侵害する事態だったわけだ。
暴力は「図書館の敵」
講師の木村さんは自己紹介を兼ねて、母親が図書館司書だったと語り、図書館は「私にとって特別な場所」と振り返った。
その上で、宣言の1項から4項までを憲法とのかかわりから意味づけ、「図書館の自由とは間違いなく闘い。自由を守る方針というのは、非常に大事」と指摘。あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」の展示に対する放火やテロなどの脅迫行為にも触れ、「暴力は『図書館の敵』」と語り、図書館界が団結して闘うことの大切さを指摘した。
自由宣言の策定には、破壊活動防止法制定との関連があった。1975年に刊行された『図書館と自由 第1集』(日図協刊)によると、破防法案が国会に上程されていた52年5月、図書館大会で反対決議を模索する動きがあった。実現はしなかったものの、54年には日図協事務局長が「急角度の時勢の変更に伴って図書館の本質である自由、中立性が刻々侵されそうになっており、時と共にその度合いが深刻になるであろうと予見される」との問題意識を表明。その危機感が「図書館の自由宣言」として結実したという歴史がある。
とりわけ公共図書館は市民の知る自由に奉仕する、民主主義を体現した場だ。行政内部にあっても権力から遠い存在といっていい。だからこそ利用者は読書という心の内面をさらしても安心できるのだ。“古希”を迎えた自由宣言の価値をあらためて噛みしめたい。
※注:『週刊金曜日』2022年10月14日号で詳報。
(『週刊金曜日』2024年10月4日号)