河村たかし名古屋市長が「衆院選出馬」 名古屋城復元投げ出しに批判
井澤宏明・ジャーナリスト|2024年11月19日3:59PM
名古屋市の河村たかし市長(75歳)が10月1日、半年の任期を残して市長を辞職し、27日投開票予定の衆議院議員選挙に出馬すると表明した。看板政策の名古屋城天守の木造復元が市民討論会での差別発言問題で1年余り「凍結」され、9月にまとまった検証委員会の最終報告で市長の「パワハラ疑惑」が指摘されたばかり。「投げ出しだ」との批判が強まっている。
「木造復元」構想はそもそも、2009年4月に市長に初当選した河村氏が、現在の鉄筋鉄骨コンクリート造天守を「耐震改修」する元々の計画をひっくり返して打ち出したものだ。15年9月には「東京五輪・パラリンピック開催の20年に間に合わせる」と宣言。16年4月の熊本地震で熊本城が被災すると18年5月、「震度6強程度の大地震で倒壊、崩壊する可能性が高い」として現天守を立入禁止にしてしまった。すでに6年になる。
ところが現天守の解体、木造復元に必要な文化庁の許可をいまだに得られないどころか申請さえできていない。「危機的な状態」と有識者が警告する江戸時代からの石垣の保全を後回しにしたツケだ。
バリアフリー問題も未解決のままだ。「史実に忠実な復元」のためとして河村市長が18年5月に正式決定したエレベーターを設置しないという方針に反発が強まり、日本弁護士連合会は22年10月、最上階までのエレベーター設置を求める要望書を市に提出した。
ところが市は同年12月、公募の結果として車いす1台と介助者1人しか乗れない「垂直昇降設備」の採用を発表。「できるだけ上層階まで目指していきたい」と市の担当者は説明したが、河村市長は「1、2階までだったら、(障害者差別解消法が定める)合理的配慮と言えるのではないか」と発言、大きな食い違いを見せていた。
混迷の中、昨年6月に行なわれたのが市民討論会だ。エレベーター設置を求める車いすの男性に、中年男性が「どこまで図々しいのって話で、我慢せいよ」とかみついた。にもかかわらず河村市長は「熱いトークもありましてよかったですね」と挨拶して閉会した。
市の対応に批判が強まり、昨年8月にスタートした市の検証委員会(委員長・田中伸明弁護士)は最終報告で市に対し「市長・副市長をはじめとした関係者の人権感覚の希薄さが差別事案の根源的な背景・遠因となっていたものと判断する」と指摘。背景に市職員の苦悩や葛藤があったとし、職員へのヒアリングで、打ち合わせの場での市長や副市長の発言を「パワーハラスメント」と受け止めた職員がいたことを明らかにした。
パワハラ疑惑もそのまま
9月18日、最終報告を受け取った河村市長は報道陣の取材に対し「私はパワハラをやるということは全然ありえんこと」と否定する一方、事実解明のための第三者委員会を設置する方針を示した。
その舌の根も乾かぬうちの衆院選出馬表明。10月1日の記者会見では「130%ぐらいの出来だと思います」と減税など4期15年余りの成果を強調した河村市長。迷走する天守の木造復元について問われると「世界で初めてのことで、ようやってきたと思いますね」と自賛。「バリアフリーと言われる人もあるけど、熊野古道にエスカレーターつけろとか、法隆寺にエレベーターをつけろとか、なってっちゃうじゃないですか」と「河村節」を繰り返すだけだった。
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」に端を発し仲違いした愛知県の大村秀章知事のリコール運動には自身も「顔」となって深くかかわり、署名偽造事件では逮捕者も。河村市長が不払いを決めた芸術祭の負担金約3380万円をめぐり最高裁は今年3月、市の上告を棄却、敗訴が確定した。大村知事は10月1日の記者会見で河村市長の出馬表明を「無責任極まりない」と痛烈に批判した。
(『週刊金曜日』2024年10月11日号)