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埼玉県内のクルド人排斥激化 市民らヘイト規制条例制定求める

石橋学・『神奈川新聞』記者|2024年11月19日5:10PM

 埼玉県南部の川口市と蕨市に集住する在日クルド人を排斥するヘイトスピーチが拡大し、激化している。迫害行為がインターネット上から日常生活の場にあふれ出て、クルド人住民はいつ誰に何をされるか分からないという恐怖を強いられている。地元住民からは歯止めとなる罰則付きのヘイトスピーチ規制条例を求める要請が同県の大野元裕知事に相次ぎ、市民の人権と安心安全を守る責務を有する県の具体的な施策が求められている。

「埼玉から差別をなくす会」「STOP HATE 川口・蕨」の2市民団体は9月25日、要請文を県庁に届けた。

ヘイトスピーチの実態をまとめた資料を埼玉県の担当者に示し、条例の必要性を説く中島麻由子さん(中央)ら。(撮影/石橋学)

「このままではヘイトクライムが起き、実際に暴力が振るわれる。過去のことではなく、いま起きる恐れがある。これ以上繰り返させないよう対策をしてほしい」

 差別をなくす会の中島麻由子さんは県人権・男女共同参画課の担当者にそう訴えた。大野知事は今年9月1日、関東大震災時に虐殺された朝鮮人を悼む式典に追悼文を初めて送った。朝鮮人を蔑み、敵視するデマが虐殺を引き起こした歴史を知り、差別の危険性を認識しているのなら、抑止に動いてくれるはずだという期待を込めての要請だった。

 あわせて提出した、実態をまとめた資料が窮状を伝える。

「もしよければ20人ぐらいでチーム作ってクルド人をボコしに行きませんか?!」「川口にいるクルド人全部殺しちまった方が早いだろ」――。Xの投稿では「国へ帰れ」「出ていけ」という排除にとどまらず、暴力の煽動、虐殺の呼びかけが行なわれている。

 実際に行動に移す「自警団」も現れている。「クルド人の犯罪が多発し、まちが無法化している」というデマを口実に、実際にやっているのはパトロールと称した嫌がらせだ。見かけた外国人をスマホで盗撮したり、散らかっているゴミを外国人の仕業と決めつけたりして、SNSに「害虫共がゴミを撒き散らしている」と書き込む。

 レイシスト集団のデモや街宣も毎月のように繰り返される。バイト先で客に「クルド人は人間じゃない」と怒鳴られた高校生がいる。解体業の仕事で使うトラックに「クルドジンシネ」とスプレーで落書きされたこともある。クルド人をテロリスト呼ばわりし、厄介者扱いする差別チラシが家々に投函されてもいる。JR蕨駅前では外国人を閉じ込める「収容施設」を求める署名活動が始まった。

 資料ではジャーナリスト安田浩一さんのルポから「普通に歩いているだけでも、つい振り返ってしまう。撮影されていないか気になるんです。スマホを持った人とすれ違う時も緊張してしまいます」というクルド人の声も紹介した。

攻撃が激化した背景

 こうした攻撃が始まったのは入管難民法の改正が国会で審議されていた昨年5月ごろ。改正に反対する姿がレイシストやネット右翼の目に留まった。事態の急速な悪化に危機感を募らせる一方、中島さんが強調するのは「ヘイトスピーチは過去にもあり、対策が不十分だったから今の状況になっている」という行政の不作為。2009年からフィリピン人や中国人を標的にした排斥デモなどが行なわれており「最近ではトランスジェンダーや障害者へのヘイトもひどい。クルド人だけでも、川口、蕨だけの問題でもない。さまざまなマイノリティを広域で守れる枠組みが必要だ」と説いた。

 10月4日には市民団体「ヘイトスピーチ禁止条例を求める埼玉の会」も請願書を大野知事あてに提出。クルド人に限らず、在日コリアンや朝鮮学校へのヘイトスピーチも続いているとして、罰則条例の制定を求めた。大野知事は参議院議員時代に部落解放同盟の機関紙『解放新聞埼玉』のインタビューに答え、ヘイトスピーチは法規制すべきだとの見解を示している。今年3月の会見でも「ヘイトスピーチは地域社会から徹底して排除されなければならない」と語っている。かつてない悪質さで広がるヘイトを目の前にして、その政治信条の本気度が問われている。

(『週刊金曜日』2024年10月11日号)

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