皇室行事「育樹祭」反対ビラを常磐大学で配付の2人逮捕 茨城県警が“運動潰し”で暴走か
潮来伊太郎・ジャーナリスト|2024年12月10日5:04PM
茨城県の潮来市などで昨年11月11日・12日に行なわれた皇室行事「第46回全国育樹祭」をめぐり、開催反対を呼び掛けるビラを貼るため常磐大学(水戸市)の構内に入ったとして、茨城県警公安課は9月11日、県内在住のAさん(55歳)、Bさん(29歳)の男性2人を建造物侵入の疑いで逮捕。20日間勾留の末、水戸地検は同月30日に2人を不起訴処分で釈放した。
今回の逮捕は反天皇制運動など政治運動の弾圧、情報収集を本当の目的とした別件逮捕との見方が濃厚だ。同県内では8年前の2016年にもG7(主要7カ国)首脳会議の茨城・つくば科学技術大臣会合(つくばサミット)への抗議行動をした男性(当時43歳)が逮捕(不起訴処分で釈放)された前例がある。
今回の逮捕容疑は昨年10月5日午後1時58分頃に2人が同大学構内に無断で侵入したとされるもので、同大学が被害届を後日、県警に提出していた。ただ関係者によれば当日は同大学で特段のトラブルもなかったようだ。その後の11月11日に潮来市内で催された育樹祭反対デモで参加者45人(主催者発表)が「育樹祭をやめろ」などと訴えながら行進したが、ここでも逮捕者はなかったという。
そのデモから1年近くを過ぎての突然の逮捕を受け、前記2人の支援者らは「茨城育樹祭ビラ弾圧救援会」を結成。9月16日には約20人が県警の水戸署とひたちなか署の前で激励行動を実施。勾留中の2人の即時釈放を訴えた。
勾留理由開示公判で紛糾
この件に関する勾留理由開示公判が9月27日に水戸簡裁で開かれた。まずAさんの公判で同簡裁の福本修裁判官は勾留理由を「罪証を隠滅するに足りる状況証拠があった。被疑者が逃亡する恐れがある」と述べ、勾留延長の理由は「お答えする必要はありません」と回答を拒否した。
意見陳述でAさんは「昨年11月の潮来市のデモで活動は終わったと思った」としたうえで「しかし今月11日早朝に突然やってきた県警公安課から『闘いはまだ終わっていない』と教えられ、デモの時は会場を借りられず断念した集会を(法廷で)開くことができた」などと皮肉を込めて語った。また、弁護人はAさんが取り調べ段階で「君は『黒ヘルグループ』に所属しているのか」など、建造物侵入とは関係ない尋問を受けた実態を明かした。
続いて開かれたBさんの公判でも、福本裁判官はAさんと同じ内容の勾留理由を説明。弁護人は、Bさんが逮捕当日、仕事で外出していた最中に家族から家宅捜索が来たとの連絡を受け、警察官がいる自宅へと戻ってきたことを明かしたうえで、それでも「逃亡の恐れがある」と考えた理由を質したが、ここでも同裁判官は「お答えいたしません」と回答を拒否した。
Bさんは意見陳述で「9月11日の朝、手首を冷たく締め付ける鉄の輪をはめられてから私の生活は一変した」などと述べ、前日に静岡地裁で袴田巖さんが再審の無罪判決を得たニュースも絡めながら県警や裁判所の対応を糾弾した。弁護人は「公安警察による運動の弾圧、情報収集が目的ではないか」と指摘。一連の捜査について、憲法が定める「思想信条の自由」に反するとして厳しく非難した。
この日は傍聴人に対して裁判所側が退廷命令を乱発し、Aさんの公判では7人、Bさんの公判では4人が退廷させられた。また入廷前の傍聴人に対する身体検査の際「男性警備員が女性傍聴人を検査する」という問題行動があったとして、傍聴人や弁護士が抗議する一幕があった。
なお、今回の事件をめぐる報道では「共同通信」が9月11日に第1報を配信のうえポータルサイト等に掲載。翌12日には『茨城新聞』と『読売新聞』茨城版が報道したが、後者は「同課による逮捕は8年ぶり」など県警公安課の活動を称賛するかのような報道だった。一方、その後の不起訴処分と釈放の件については前記両紙とも10月1日付紙面で小さく報道したが、「共同通信」の続報については本稿執筆時点で確認されていない。
(『週刊金曜日』2024年10月25日号)