〈映画のキャンペーン〉想田和弘
2024年12月10日5:19PM
何かに光が当たるなら、必ず同時に影もできる。100%ポジティブなことなど存在しない。
拙作『五香宮の猫』のキャンペーンに忙殺されながら、そういう原理原則の正しさを再確認している。
たとえば、キャンペーンではさまざまな媒体にインタビュー取材をしてもらう。日本国内に限っても、現時点で40件以上の媒体からインタビューを受けてきた。これから日本各地の劇場を舞台挨拶のために回るので、取材件数はもっと増えるだろう。
そうした取材は人々に映画の存在を知ってもらい、劇場へ足を運んでいただくために必要不可欠である(少なくとも普通は)。映画作家や配給会社、映画館にしてみれば、実にありがたいことだ。自作の話をすることは、僕にとっても楽しい。
しかし同時に、インタビューで僕が自分の考えを詳しく表明することで、映画の解釈を一定方向に誘導し、狭めてしまうことも起きる。なるべくそうならないよう、気をつけて話しているつもりだが、限界がある。「観察映画」を標榜し、ナレーションやBGMを使わず、観客一人ひとりに独自の観察と解釈ができるように映画を作っている僕としては、矛盾を感じてしまう点だ。
予告編を作って流すことにも、ジレンマを感じる。予告編の目的は人々に「この映画、見たいな」と思ってもらうことなので、本編からのベストなショットを選んで使うことになる。しかしベストなショットは、本当は本編を鑑賞した時に、初めて目にしてほしいショットでもある。映画の宣伝には、そういう難しさがある。
だからかつて本欄でも書いたように、宮崎駿監督が『君たちはどう生きるか』の公開時に行なった“一切宣伝無し戦略”には憧れる。インタビューを受けず、予告編も流さず、マスコミ向け試写すら行なわないのに大ヒットした様子を目の当たりにして、本当に驚き、勇気づけられた。
実はあの時「いつか僕も同じことをするぞ」と心に誓ったものだ。しかし『五香宮の猫』で僕がそれを実行しても、誰も知らない間に上映期間が終わるのがオチだと思い、結局、実行する勇気はなかった。
12月はドイツ、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランドでも劇場公開が始まる。『五香宮の猫』と一緒に走る旅は、まだまだ続く。
(『週刊金曜日』2024年11月1日号)