埼玉のクルド人ヘイトスピーチの実態とは? シンポジウムで報告
石橋学・『神奈川新聞』記者|2024年12月10日5:43PM
埼玉県の川口、蕨の両市に集住する在日クルド人を排斥するヘイトスピーチが激化している問題を考えるシンポジウムが、10月20日に川口市のSKIPシティで開かれた。ヘイトスピーチがマイノリティや地域社会にもたらす深刻な害悪を共有し、川崎市などの先行自治体にならって条例で規制していく必要性を確かめ合った。
蕨市で日本語教室などの支援に取り組む「在日クルド人と共に」(温井立央代表)が主催した。
トルコやシリア、イラクなどで迫害され「国家を持たない最大の民族」とされるクルド人に対するヘイトスピーチが顕著になったのは昨年5月ごろ。難民申請者でも強制送還できるようにする入管法(出入国管理及び難民認定法)の改定に反対の声を上げたところ、「嫌なら出ていけ」「国へ帰れ」という攻撃がSNS上にあふれるようになった。
昨年秋からはヘイト団体が街なかでデモや街宣を繰り返し、「自警団」を騙ったレイシストたちが、子どもを含むクルド人住民を盗撮するなどの嫌がらせをするヘイト行為が横行しはじめた。
在日コリアン2世で龍谷大学教授の金尚均さんは「同じマイノリティとして人ごととは思えない。『防衛隊』を名乗って正当防衛であるかのように攻撃を仕掛けてくる。『ゴキブリ』『殺せ』と繰り返して人々の良心の壁を下げさせて、暴力を振るうことを許す社会をつくりだす」と解説。2009年、10年とレイシストが京都朝鮮第一初級学校(現・京都朝鮮初級学校)に押し掛け、ヘイトスピーチをまき散らした事件の被害当事者でもあり、「襲撃の翌日、長女に『アッパ(お父さん)、朝鮮人って悪いの?』と言われた。生きる価値を喪失させ、同じ人間としての地位を奪うのがヘイトスピーチの怖さだ」と指摘した。
川口、蕨両市のクルド人でつくる日本クルド文化協会の事務局長、ワッカス・チョーラクさんも子どもたちへの悪影響を心配する。インターネット上のヘイトスピーチに触れたクルド人の子どもが「パパは悪いことしているの?」と尋ねることがあったという。
「日本の友だちから『親からクルド人とは話すな、遊ぶなと言われた』と告げられるケースもある」
隣人の態度に悪影響も
クルド人は解体業に従事することが多い。廃材を荷台に満載したトラックに対して、侮蔑を込めて「クルドカー」と呼び、盗撮しては「違法車両」などと言いがかりをつける嫌がらせもまかり通る。クルド人経営の会社で働く日本人女性も登壇し「私も(トラックを)運転するが、視線を感じて緊張しながら運転している。何もしていないのに悪いことをしているように見られ、クルドの人たちはいら立っている。外国人だから悪いということはなく、日本のルールがわかれば合わせられる。温かく見守ってほしい」と訴えた。
ヘイトスピーチの問題に詳しい師岡康子弁護士は「クルド人から聞いて衝撃を受けた」という話を紹介した。
「ネットや街なかのデモでヘイトスピーチが繰り返されるようになり、隣人の態度が変わってしまったという。部屋の前にごみを置いたり、タバコの吸い殻を捨てたりするようになった、と。入居差別も起きていると聞く。ヘイトスピーチが住民にも広がり、差別や偏見に基づくヘイトクライムが起きている。物理的な暴力に直結する危険な状態だ」
加害行為を食い止めるには国における法整備や埼玉県、川口、蕨市による条例制定が不可欠だと指摘し、「川崎市には刑事罰を科す条例があり、効果を発揮している。差別を犯罪として処罰することで悪質な人でも明白に違反となるヘイトスピーチをしなくなった」と説いた。そもそも人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法が法律や条例を定める義務を課しているとして、「解消法や川崎市条例がそうだったように、一人ひとりが声を上げ、議会に働きかけていけば実現できる。条例をつくることが国の法整備を後押しする大きな力にもなる」と呼びかけた。
(『週刊金曜日』2024年11月1日号)