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東京・町田市の住宅庭に有害な酸欠空気 リニア地下工事の直上で気泡発生

樫田秀樹・ジャーナリスト|2024年12月26日4:31PM

 

 10月22日午前6時。東京都町田市小野路町に住むMさん(男性)は、自宅の庭に水が湧き、ブクブクと気泡が噴出するのを見て驚いた。85年間も同じ場所で生きてきて初めてのできごとだ。

 Mさんは水道管の破損を疑い、市水道局の職員に来てもらうが、職員がその場で試薬を使った簡易試験を実施すると、通常なら水道水の塩素に反応する色が出ず「水道水ではない」と説明した。そこで、Mさんが次に疑ったのがリニア中央新幹線の工事だった。

東京・町田市の住宅の庭に湧いた気泡。池もない場所の地表に突然噴出した。(撮影/樫田秀樹)

 Mさん宅から約200メートルの距離には、JR東海が2034年以降の開業を目指すリニア中央新幹線を建設するための施設の一つである立坑「小野路非常口」がある。そこを昨年7月25日に発進した直径14メートルのシールドマシンは、今年10月にはMさん宅から十数メートル離れた場所の地下約50メートルを掘削していた。

 庭の異変の連絡を受けた市民団体「リニア中央新幹線を考える町田の会」のメンバーは、現場の視察後、すぐにJR東海と工事事業者である「安藤・間JV(共同企業体)」(以下、JV)に「すぐに来て!」と連絡を入れた。JVの職員は来訪すると、検査のために水を採取していった。

 この工区は「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(01年施行)に基づき、地下40メートル以深の工事であれば地上に住む地権者と無交渉で施工できる。Mさんは「私はJR東海から何の説明も受けていない」と原因不明の気泡を恐れている。

JVは即マシン稼働停止

 シールドマシン掘削で気泡が湧いたのはこれが初めてではない。

 18年と20年にはNEXCO東日本(東日本高速道路)による東京外かく環状道路のトンネル工事で、直径16メートルのシールドマシンが都内の世田谷区内を掘削中、野川という川にジェットバスのような気泡が湧いた。この時シールドマシンは土を掘削しやすくするよう掘削面からシェービングクリーム状の「起泡薬剤」を噴出していたが、気泡がマシンに回収されることなく、酸欠空気として川に湧いたのだ。

地上に気泡が湧いた「小野路非常口」付近の掘進状況を示した図。(JR東海の公式サイトより)

 市民団体がそれを採取し酸素濃度を測定すると、吸引すれば数分で死に至るという6%しかなかった。そのシールドマシンが20年10月、土を取り込み過ぎたことで同じ都内の調布市の生活道路を陥没させたことも付記しておきたい。

 JR東海のリニア工事においても品川区の立坑「北品川非常口」から発進したシールドマシンはやはり起泡薬剤を使用し、今年8月、非常口に近い目黒川に気泡が湧いた。だがこの時JR東海も清水建設JVも気泡の採取をせず、また国土交通省も「環境への影響はない」と判断。工事が中断することはなかった(本誌9月20日号参照)。

 今回の気泡が注目されるべきは、その噴出が初めて住宅地で確認されたことだ。

 さすがにその事態を重く見たのか、JVは22日にシールドマシンの稼働を停止。水と気泡の噴出が止まったのは24日だが、その前に「町田の会」はペットボトル2本に気泡を採取し、26日に酸素濃度を計測すると、1%というほぼ無酸素状態であることが判明した。

 Mさんは「家の土台のどこかの隙間から酸欠空気が部屋に入ってきたらと思うと、眠れたものではありません。水が地下水なら地盤も緩むかも」と恐れている。

 筆者はJVに「住民説明会をするのか」「水の分析は公表するのか」と電話取材を試みたが、回答はいずれも「差し控えます」という不誠実なものだった。

 工事を再開した場合、地盤によっては、同様の事故が再発する可能性がある。JR東海の事故予防策が問われている。

(『週刊金曜日』2024年11月8日号)

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