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「旧動燃差別是正訴訟」控訴審 争点は被告免責する消滅時効

稲垣美穂子・フリーランスライター|2024年12月26日4:36PM

 2015年7月、旧動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」)で、現在の国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「機構」)の元職員4人(17年3月に2人追加)が、思想や信条に着目した不当かつ差別的人事処遇や、同期・同学歴の人たちに比べて退職時までに、約3000万円の賃金格差が生じるほど昇級・昇格を抑制され、また結婚式妨害など差別的扱いを受けたとして、機構に対し損害賠償を求め提訴した。

開廷前にデモ行進する原告らと弁護団、支援者。(撮影/稲垣美穂子)

 今年3月14日、水戸地方裁判所(廣澤諭裁判長)は、提訴前の3年以内の損害に限定したうえで差別があったと認定。機構に対し、原告の元職員5人に約4700万円の賠償を命じた(退職が早かった原告1人については、賠償請求権の時効を理由に棄却)。元職員らは突然裁判を起こしたわけではなかった。動燃では1974年に再処理工場で発生した転落死亡事故をめぐり、労働組合がストライキを行ない、職員から安全性を求める声が上がっていた。

 10月24日、その控訴審が東京高裁で始まった。

 法廷では、まず原告の高野真一氏が陳述。入社後、当時建設中だった核燃料再処理工場の放射線管理業務に就いた。

 業務を通じて、原子力は完成された技術ではないことを知り、組合役員選挙で原子力三原則を守った安全な原子力を望む候補を応援したり、東海村村議選で円道正三氏を支持したりした。

 その後、安全対策課線量計測係へ異動となり、現場から外された。「一番ショックだったのは再処理勤務時に頑張って勉強して取得した資格が生かせない仕事内容だったこと」。

 最終的に岡山県の人形峠事業所に飛ばされ、研修の機会も与えられず、定年までの29年間留め置かれた。

「定年で実家に帰っても親しかった地元の友人たちとも疎遠に。近所でも代替わりで顔がわからず、地元の行事等でも一からのスタートを余儀なくされ、精神的に大きな負担になっています。29年間の空白はとても大きく感じ、同時に強い怒りを覚えています」と訴えた。

 さらに裁判で自身の賃金が最低ランクだったことを知り、「これには愕然としました」と不当な賃金差別があったことにも触れた。

 次に、原告の今井忠光氏は「旧動燃から続く体質、技術者の口をふさぎ、差別処遇を当然視してきたことが事故・不祥事だけでなく技術面でもまともな成果を上げられなかった原因に繋がった」としたうえで、「機構が地域の信頼を取り戻せるような組織、技術者が良心と英知を発揮できるように変わってほしいというのが私の願い」だと訴えた。

消滅時効は許されない

 最後に、加藤健次弁護士が本件訴訟の意義と、一審被告の動燃による差別の実態に言及。

 また、最大の争点である消滅時効について、近年、優生保護法などをめぐって除斥期間を適用しない判示がなされたことに触れ、「憲法上許されない思想・信条による差別を秘密裏に行なってきた一審被告の損害賠償責任が、一審原告らがその事実を認識できなかったことをもって、限定されることは、明らかに公平に反するものであり、到底許されることではない」として一審判決の問題点を指摘した。

 報告集会では、平井哲史弁護団事務局長が、一審判決は動燃本社総務部次長だった西村成生氏が作成した「西村資料」に全面的に依拠し、動燃による差別政策、昇格差別を認定したことを紹介。

 そのうえで、被告の控訴理由書について「ほぼ一審の焼き直し。いまだに西村資料を否定し、『動燃労内の路線対立に関し双方の活動の実情等を把握し、場合によっては双方に対し必要な配慮につき検討する必要があった』などと言い訳をしている。また昇格の遅れは適切な人事評価によるものだとしている。しっかりと反論をして、早期にいい解決を迎えたい」と完全勝訴に向けて意気込んだ。

 次回は25年1月14日(火)の予定。

(『週刊金曜日』2024年11月8日号)

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