「優生思想ぶっこわせ!」 旧優生保護法「違憲」判決受け障害者ら院内集会
石橋学・『神奈川新聞』記者|2024年12月26日4:59PM
旧優生保護法で障害者に強制した不妊手術は憲法違反と断じ、国に損害賠償を命じた7月3日の最高裁判決から4カ月、被害からの回復に道を開いた勝訴をどう生かし、差別根絶につなげるかを考える集会が11月5日、東京・永田町の参議院議員会館で開かれた。
「あなたのなかの優生思想をぶっこわせ!」と題し、重度障害者であっても地域で当たり前に暮らせるよう取り組む「全国公的介護保障要求者組合」が主催した。
冒頭、三井絹子委員長は自身の体験から語り起こした。入所施設で何度も子宮摘出を勧められ、1970年代半ば、結婚してアパート暮らしを始めると「なぜ障害者がこんなところにいるの?」「なぜ子どもを生むの?」と疑問を次々投げかけられた。「子どもを生むのに理由などない。なのにそれが許せない人がたくさんいた」。
夜中に電話が鳴り「妊娠? 障害者が何を考えているんだ。『かたわ』の子が生まれる」と差別発言を吐かれ、ある日は乳母車が壊されていた。社会の構造は今も変わっていないという三井委員長は「障害者は養護学校(特別支援学校)に通うものとされ、健常者とは別の生き物という意識を皆が持つようになった。生きる価値に優劣をつける優生思想は分離の歴史に根ざしており、両者が分けられずに共に生きていく環境をつくることが必要だ」と訴えた。
「不良な子孫の出生を防止する」という旧優生保護法こそ、障害者の命が存在してはならないものと国家が定めた人権侵害法にほかならない。48年から96年までに不妊手術は約2万5000人、人工妊娠中絶は約5万9000人を数え、判明しているだけで被害者は約8万4000人に上る。
7月の最高裁判決は「憲法13条、14条に違反する規定に基づき、48年もの長期間にわたり国家の政策として障害者を差別し、重大な犠牲を求める施策を実施してきた」と指弾。「国を免責するのは著しく正義・公平に反する」として、不法行為から20年の経過で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用しなかった。
原告の一人、北三郎さん(仮名、81歳)は「判決は障害者は人間として価値がないわけではないと示した。優生思想がなくなり二度と苦しまない生活を送りたい」と語った。14歳で、施設職員に連れられ何も知らされないまま断種させられた。「岸田(文雄)首相(当時)や小泉(龍司)法相(当時)に謝られたが体は元に戻らない」とも述べ、取り返しのつかない被害の重大さを伝えることも忘れなかった。
補償法で終わらせるな
原告弁護団の関哉直人弁護士は「立法当時の社会状況をいかに勘案しても正当ではないと判断した。どれだけ国や世論が黒を白と言おうと、駄目なものは駄目だというメッセージだ」と判決を評価した。障害者の人権擁護に取り組む藤岡毅弁護士も「国家権力が差別偏見を植え付ける政策を強力に推進し、差別が広がった。障害者『更生』施設といった言葉を用いるなど、差別を助長する法令や判例を洗い出す必要がある」と指摘。「グループホームの建設反対運動やヘイトスピーチなど根底にある差別偏見の解消も不可欠。障害者は特別ではないと肌で感じられることが大事だ」とも説いた。
では立法自体が憲法違反と断じた判決は立法府にどこまで響いているだろうか。重度障害者である木村英子参議院議員(れいわ新選組)は10月に成立した被害者補償法の意義を解説する一方で警鐘を鳴らした。「『LGBTは生産性がない』とつづった杉田水脈前衆議院議員や尊厳死の法制化に言及した国民民主党の玉木雄一郎代表など、差別的な発言をする国会議員が増えている。法律をつくる議員が障害者や高齢者の存在を脅かしており、そのことに気づいていないことこそが優生思想だ」。
要求者組合の鈴木敬治書記長は閉会後、記者を呼び止めて強調した。「優生保護法の問題を補償法で終わりにさせてはならない。優生保護法をなくして再発を防止するための法整備に取り組まなければならない」。
(『週刊金曜日』2024年11月15日号)