原発避難の末期がん患者に住居退去通告 大阪市の非道対応に批判続出
吉田千亜・フリーライター|2024年12月26日5:05PM
原発事故により関東から大阪市に避難し、その最中に末期がん患者かつ重度障害者となった新鍋さゆりさん(仮名・50代)は、公営住宅無償提供の打ち切り(2017年3月末)に際して入居していた市営住宅の退去を求められ、生活保護の打ち切りを通告された。だが退去できなかったため大阪市から建物の明け渡しと、損害金約1800万円を請求される訴訟の被告となった。訴訟の判決が11月22日に大阪地裁で出るのを前に、この問題をめぐり「原発事故と福祉行政を考える」シンポジウムが11月3日に大阪市内で開かれた。
シンポジウムの表題通り、この事案は「原発事故(住宅)」と「福祉行政(生活保護)」という、二つの問題をはらんでいる。
原発事故避難者の住宅は、自然災害のための災害救助法に基づき無償供与されたが、避難の長期化については法的に想定されていない。そうしたシステムの不備が押し付けられる形で、住宅支援の打ち切りに際しては多くの避難者が精神的・経済的に追い詰められ、苦しめられてきた。
しかも、この事案では住宅支援打ち切りと同時に福祉行政が突然「生活保護を打ち切る」と言って退去を促してきた。それまで住居の問題にまったく関知してこなかった福祉事務所が、17年3月31日の退去期限の日、退去しなければ生保打ち切りと言い出したのだ。
「大阪は大丈夫か? と思った」と語ったのは、東京から集会参加のうえ登壇した瀬戸大作さん(反貧困ネットワーク事務局長)だ。困窮者支援の現場で毎日のように困窮者のもとに駆けつけ生活保護の申請に同行する瀬戸さんの実感でも、酷さが際立つ事案だという。
新鍋さんは法的にみても居住が守られなければならない(すなわち大阪市の明け渡し請求は違法)との具体的かつ重要な指摘をしたのは水野吉章さん(関西大学法学部教授)だ。その説明によると、住宅支援の打ち切りは公営住宅の建て替え時の退去に酷似しているという。公営住宅の建て替えは行政の都合で決まる。同じく原発事故避難も、避難先での生活を無視して一方的に期限を決められてしまい、どちらも行政の都合だ。ただし公営住宅の建て替え事業の際は、居住者のために現地か近接地への転居を確保する義務が自治体にはある。
「つまり新鍋さん(や他の原発事故避難者)にも公営住宅法に基づき現地や近接地住居を斡旋されるべきだった。入居者に過失はない。一方で大阪市はすべきことはしないまま過剰な請求(明け渡しと損害金)をしている。裁判所がこれを認めたら、全国の明け渡し訴訟で認められないケースはなくなるというほど深刻だ」(水野さん)
大阪市の隠れた本音とは
生活保護の打ち切りについて、新鍋さんの代理人弁護士で困窮者支援の現場にもたつ普門大輔さんは、福祉事務所が残した新鍋さんの生活保護のケース記録を調べた結果「都市整備局による避難者に対する住居明け渡しをアシストするために福祉事務所が連携を取って受給者を追い詰める構造が見えてきた」と話した。福祉事務所による生保打ち切り間際の「弁明の機会」において、弁護士が同席し新鍋さんの生活保護の廃止を行なうことの問題点を指摘すると、大阪市はそれ以降、生活保護打ち切りをまったく言わなくなった。
過去に大阪府内でケースワーカーを務めていた猿橋均さん(現在は大阪自治体問題研究所事務局長)は「大阪市は生活保護を減らすことばかりを考えている。各福祉事務所に警察官OBを配置、面接室の監視カメラ設置など嫌がらせとしか思えない」と語った。同市から受給者の就職支援事業を委託された民間企業に対し、1人の保護廃止につき約6万円の追加報酬が支払われていたという実態については21年に『しんぶん赤旗』も報道していた。
集会の最後に紹介された新鍋さんのメッセージには「追い出される前に、がんで死ねますように」という言葉があった。こんなことを避難者に言わせた大阪市はもはやまともな行政と言えまい。
(『週刊金曜日』2024年11月15日号)